第一発見者は犬を散歩中の主婦、石垣セツだった。九月三十日午前六時三十分ごろのことである。石垣セツは通りかかった運動公園の一角で芝生が黒く焼けて煙がくすぶっているのを見つけた。周囲には鼻を刺すガソリンと脂の焦げるにおいが漂っていたという。
はじめ彼女は誰かがバーベキューで悪ふざけをしてボヤを起こしたのだと思った。芝生の焦げた部分に近づくと、中心に黒い大きな塊が横たわっているのが見えた。鼻を押し当てようとする犬のリードを手繰り寄せながらよくよく確認してみたところ、その塊は人間の形をしていた。
一見して性別や年齢は分からない。真っ黒な体は身をよじるようにねじ曲がっており、むき出しの歯だけが朝日を反射して光っている。目玉の溶け落ちた眼窩の深い闇がぽっかりと虚空を見つめていた。空に向かって伸びた手の先に石垣セツがそっと触れると、炭のように干からびた指がポロリと落ちた。
運動公園の駐車場には焼死した人物のものと見られる自動車が停まっていた。タンクからはガソリンがすべて抜き取られていた。車内に残されていた財布の中の免許証から人物の身元が特定された。満島薫、四十五歳、男性。所持金は一万八千円と小銭。クレジットカードは二枚。
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