GLASS

小説

8,688文字

湯舟に浸かり、空想に浸る主人公と、その妻の日常の一遍

――ピアス――

孤独な者がするそのアクセサリーは、汚れた夢を手にしてる者にだけ、許される絆をその姿で晒している。

汚れた、朝、深い、夜、滞りなく流れるこの体の中の温度が火照ってきてる。

痛いからもう辞めて。

僕は、命乞いをする。

さあさあもっとするぞ。

キャアー。

意識がなくなるまで僕は、ちりぢりに破壊され、冒涜を受け続ける。

孤独だから、辞めて!

一人だから、笑わないで……

みんな孤独なんだよ、だから、傷つける鳥の舞う羽の一つ一つをけなすのは、もう……辞めて。

人権が侵害されるのは、いいけど、プライドを侵食するのは、もう……辞めて。

高々く、プライドを持つのは、人間の持つ愛嬌だけど、もう……さらすことくらい涙は重力に惹かれてその寂しさを悲しむだけの人生に置き換えて、もう……いいんだよと、弱みを叫んでみる。

ああ、神よ、おおらかな神よ、自らの汚れを拭いたまえ!

我らの悲しみを大事に滅び称えたまえ。

傷一つ、癒せない、我らを清純に清めたまえ……

叫べない。

孤独な人間よ。

命をまとう衣に身を、命を、注ぎたまえ……

もう嫌だ。

傷が開く。

傷が――踊る――

体中の悲しみがつま先から、頭の頂まで、したってゆく。

傷の無い喜び。

わが人生にサヨナラ。

深い悲しみは、とうとう癒されなかった。

もう、体中がボロボロなんだ。

もう、涙の跡さえも……憎めない。

I lоve yоuって僕の……言葉じゃない。

傷が騒ぐんだ。

一つ。

傷を排除し、口笛を吹けば、清らかになる。

心を癒し、荒んだ心を洗い流せば、滲み出る渇きさえ、満たされるだろう。

それでも、愛が感情を否定するならば、強情になればいい。

まだ、感情が干からびて、いやいやしてるなら、もう分け合う悲しみなどない……

だが、気持ちは、熱い。

熱い、だから、どこまでも広がる、沁み渡る研ぎ澄まされた感受性をびんびんに尖らせて、崇拝する体中のとげとげが、「ワインレッドの心」を歌うように、囁く……

未来が無い人生なんて、嫌だ。

傷一つ見せられなくても、誇りがあるならば、許されることがある。

心の隅にある、悶・え・る・も・の・。

感情的に人を愛すことが、悲しみに埋め尽くされた心を、青い心を、ボロボロに惨めな姿にすり返る妄想をいがむのなら、細い体をしなやかにくねらせて、上品に愛を妬む婦人がささやかに笑う仕草を拒むようなそんな楽園を創造し、慈しみあう、ああ、さあ、期日は、過ぎた、次は、体中の輝きという輝きが光を失くすまで、胸に守り、慰めあうこそが、答え、と、その抱き合う理由だ……

感情が、どんどん、野蛮な悲しみを埋めてゆく。

従う。

涙は、枯れたら、怒られるけど、孤独は、一人でどこまででも浸れる。

ああ、考えてみたら、僕は、輝く素質を持った「グレートブルー」の輝きをこの世に知らしめる唯一の宝石だ。

汚れない。

って思うけど、辛いものなんだよ。

鼓動が、どんどん高まってゆく。

傷。

痛いよ。

もう。

嫌だよ……

星の中で泣き喚く赤ん坊のような無邪気さと、吹雪の中で途絶える命を憐れむ純青月が、kissをするような、手を取り合うような、三日月の気まぐれ……とも言うのかな……

そんないたしかたない夢……純粋な愛……愛ちゃん! 傷口が沁みるから……癒してよ……なんて、僕の弱み。聞いてくれる? ねえ、目が小ちゃいこと包んでくれる? ねえ、ねえ。

心が痛い。

心が沁みる……

痛い。

ブルー。

青い、限りなく青い、奄美大島の海のような青に、身を沈めたい……

墜ちるのではない。

腐り果てるのだ。

朽ち果てるのではなくて、譲り、妥協するのだ。

一度目が駄目だったら、他の機会で直立不動を打診すればいい。

癒える。

不思議な言葉……

魔法じみた言葉っていくつかある。

僕らは、古びた廃墟の夢……なのかもしれない……

傷が、ここだよ……って手招きしてる……

ああ、孤独よ、暴れたまえ。

深海で蠢く僕の――心――は、竜宮の使いに「別れ」を告げる、小さな小さなプランクトンなのかしれない。

星が見える。

小さな、明るい、星が見える……

明るい……明るいよ……

卑怯だな。僕は、猫じゃないんだよ……

ちょっと、鼓動が荒い希望みたいなもの……

手を握りたい……

夢だよな。

傷が……傷が……熟んでゆく。

清らかな終わりだ。

僕のささやかな希望だ。

希望……

ふっ! 何が希望だ。

濁った蒸留水のことじゃないか……

水の、深海の水の中じゃ希望は、深海魚の餌でしかない……だから、悲しみから瞳をそらさず、目視で愛す。

僕なら、そんな希望を持てる。

孤独を埋めてくれるものって何かな。

僕は、知ってる。

人形の姿をした傷がさらされている「baby」みたいなもの。

「baby」って?

孤独さ……

誰もが胸の奥に抱き持っている、抱えている、突発的な人を愛す気持ち。その願いを二つに分けて、はいって差し出す。誕生日ケーキみたいに。

僕は、悲しむ。

傷が癒えるには、まだ……時間とエネルギーが必要だ。

エネルギーは、足りない。

ずっともう,失くなりかけてるんだ。

見てみる?

だよね……

心まで沁みる。

希望、希望って、皆言うけど、その意味分かってんのかな。

深い悲しみだけじゃない、深い、信じる心も残されてるんだということを、皆、知ってるのかな。

孤独な気持ちって……気持ちいいもんだよ……

真の自由さ。

ここにあるんだ。

希望は、常に、満たされる訳がないんだ。

僕らが、未熟だから……

孤独と悲しみって、依存してるのかな。

嫌い合って、罵りあう、そんな風には、見えないんだけど……

やっぱり、耐えられないものなのかな。

人生って……

人を愛すってことが罪なら、人を傷つけるっていうことは、妥当なのかもしれない……

やっぱ人間は、愛情を粗末にするものだから、孤独とか、嬉しいか、感情が彷彿してゆく様を僕が嫌う、その事実を傷と傷の間にサンドウィッチして欲しい。

僕の命がどれだけあっても、そのための記憶というのは、二重には、だぶらないものなんだということだ。

悲しみなんて、どれだけあっても満足出来ない。

子供の頃、泣いても、泣いても、孤独から開放されることはなかった。それは、静かな静かな世界での攻撃の証。

星の中じゃ希望は、踊れない。

星の屍の一部になりはてるしか運命は、許してくれないんだ。

愛情は、愛情。

悲しみは、悲しみ。

情などない。

ただ、何か揺らされる振動が、心地いいくらいに涙が出るんだ。

人間なら普通の症状だが、大抵の場合、希望とすり替わってる場合が多い。

感情は、悲しみに比例するんだ。

特別な想いは、人の心に永遠の悲しみを深く満たす。

みんなそれが、鋭さを冷やしてゆき、やがて、シナリオ通りに幕を閉じる……

偶然という、とてつもない贈り物が、滲む影を人にさらすんだ。

悲しすぎる。

人生なんて。

人を愛す喜びに感情を揺るがし、気持ちを湿らせる。

愛が、孤独を支える軸なのなら、人間は、ちっぽけな蠍のしっぽのような優柔不断な不良生徒みたいなもんだ。

体が痛いのは、答えをためらう仕草を僕のハートが感についたからだ……

孤独だから……夢を見る。

旅人だから、夢を追い続ける。

僕もみんなも希望の星なんだ。

星の中で窮屈に足を組んで望む。

熟睡したシンデレラがハイエナに襲われないように白雪姫が守る。

そうなんだ……

みんな孤独なんだ。

笑うだけで精一杯なんだ。

星の中だから緩いけど、外じゃ、厳しいよね。

外は、星の光が差し込んで奇麗なんだろうな……

憧れる……

もし、僕が涙を大量生産できたら、冥王星の辺りでばら撒く。

散ってゆく人の形をした粒は、餓えに飢えて奇妙な形に変形してる。

胸を一突きで、死ねるのなら、孤独になる前にしてしまおうか。

鳥……

虹……

人間の愛。

気付かないけど、すべてのものは、ジェット気流に乗って空を駆け巡るコンドルみたいに丈夫で、逞しくて勇者みたいに勇敢だ。

永遠だから英雄になる。

知りえない孤独感から感情は、冷やされてゆく。

ОH! 輝きのない星たちよ。巡り巡り遭い星としての人生をまっとうするがいい。

僕たちは、星の屑として、輝きの中で抽象的に悲しみに浸るさ。

悲しみに癒されるのに必要なのは、傷だらけの心と、痣だらけの羞恥心。孤独が満タンに満たされると、押し出されて溢れ出す仕組み。純情なブルーと、がんじがらめの躊躇(ちゅうちょ)心が、Mixして、テクノを踊り出す、さあ、みんなで騒ごう! 朝まで。孤独が故に滅ぼすオレンジの花火が頭上に上がり、華々しく咲く。

みんなこうだったらいいのにな……

特別、愛が煌びやかでもないのに、君は、捜してる。

同じものを……

僕は、それに、迷い、傷つける。

ストーリー。

短い。

特別な感情、抱きしめて、癒す鳥達。人間も、孤独。

機械も、植物も、自然も、皆、笑ってる。

小鳥は、さえずり、歌は、歌い継がれる。

リズム。

大切に。

一呼吸して僕は、歌い出す。

何が大切か分かる気持ちで夢を持つ。

星屑のダンス。

僕は、信じてる……

もう少し若かったら翻弄出来たのに。

この体、ハートじゃもう追いつけない。

踊り続けるだけの体力も思いもかき消すくらいの汚れなさ。

知ってる?

夢がない大人達の中でこびいって肌を曝してる大鷲のような青い瞳。

僕なら吸い込まれるしか……ない。

孤独だからといって、寂しい気持ちを隠す必要はない。

存分に星の射すままに慈しみ合えばいいんだ。

星連れの家族や終わりのない幻想を守る番人や、すべての恋人達は、寄り添い抱きしめ合う愛を守り、孤立する取り残された無人島の漂流人のように愛を解く。(つくろ)う。慕う。愛も、何もかも、皆、悲しみに変わってくる。

自尊心を守り、孤独に耐えれば、すべては、解き放たれる。

集中豪雨を受けても、僕だけは、孤独じゃないんだよって、含み笑いする僕は、ANGELさ……

煌びやかな人生もいいけど、浅い、深いブルーに身を浸してもいいんじゃない?

アダムは、言う。

直接的幻想に、愛を、滅ぶ前の愛を投げかける。

包み込む愛。

ささやかな希望。

貴い夢は、雅に溶けてゆく。

僕は、がんばったねと言ってやりたい。

同じ、清らかな夢を星の最後に捧げ、喪に服す。

孤独なのは、自分だけじゃない。

みんなそうなんだ……

傷が膿んで、未来を見定める瞳がかすんでも、手に負えない鼓動は、鳴り響く。

未来がないと妬んでも、しょうがないと、世間は、言う。

孤独なのは、生まれ持ったものだということか。

最後に悲しみを抱きしめた朝に決めたことがある。

やがてじんじんとむしばむレッテルは、僕の最大の「傷」だ。

時々、開放される時がある。

それは、一番心に残る僕の「過去」

愛が、すべてを司るものだとしたら、人間は、最大級の罪人だろう。

みんなも思う?

罪は、消せないんだ。

そうなんだ。

真実が必要な意味を知る。

そのすべてが、起動するんだ。

嵐になる。

星がキレイで、うらやむ夜。

僕らも、星達も、羊飼いも、果てない夢を追い続ける……

意味など持たないものがこの世を支配する。

理由などないけど名もないことが世界を支えてるんだ……

僕は、星の子供達さ。

夢を追い続ける僕は、無情な孤独感に満たされている。

理屈などではない。

愛が凍えるんだ……

一人だから震える。

孤独だから手を繋ごうと思うんだ。

繋いだ手は、しなやかで無二の悲しみを曝け出してる。

だから……想いは、静かなんだ。

滴り落ちる滴が、孤独をより深いものにしてゆく。

直接的な礼儀ってブレるよね……

悲しみに拒絶される僕の本質さ……

傷が深いということでサヨナラ。

ブクブクブク。

沈んでゆく。

ごめんなさい。

僕は、泡になります。

孤独の隅に擦り付けられる。

孤独になる前に一人だったんだ。

そうか……

さすが僕だな。

僕の孤独は、永遠なのかもしれない。

子供の頃、迫害感を感じて自分以外のものが、すべて緩やかに流れる川の水しぶきの音、娯楽感に、一度抱いた夢を守り通そうと心に決めたんだ。

子供だったから、無邪気だったんだ・。

愛情がこれ程にも僕の人生を脅かすものになろうとは、思いもしなかった。

ただ、だけど、一度感じたものは、本物だったよ。

君、以外知らない。

オレンジの夢。ピンク色の夢。どちらも、殻に閉じこもった人の見る夢。

僕だったら、夢を抱く空を舞う風船のような愛される人生を必ず放棄しない。

星屑のワルツ。

踊る、うさぎとおおかみは、嫉妬感から抱きしめ合う時、びくびくしてる。

僕もそんなだったんだ。

いつか空に浮かぶ星座のような無限の存在を胸に感じ、そして、生れゆく命に、「君達は美しい」と言えるような果てしない感情を持っていたい。

星がキレイだから、空は、あるんだ。

果てないものの終わりって僕は、大好きだ。

だって無邪気に散る美学ってあると思うんだ。あ、それは、散ることがキレイだと言うんじゃないんだよ。輝く術を知りながら、散る覚悟を決めた男らしさに、女々しい僕の心は、もういちころさ。言葉じゃ言い表せないものも僕は、ありだと思う。何故なら孤独に対して希望のまやかしみたいなものは、よりくっきりと自己表現してるから……僕は、散る美学だなんてものは、知らないけど、散らなきゃならない宿命(さだめ)なら分かる。

分かるような気がする。

孤独の核って丈夫だよ……

定まったものを取り決める会談場には、僕の希望が果てている。

みんな希望を抱いてるのに僕だけ希望を足で踏みつける行為などしている。

何も見えない闇の中じゃ、希望は、輝けない。だけど、確かにそれだけの輝くばかりの「瞳」がある。僕は、それを大事にしてる。

愛し合うことが無力だなんて誰が言ったのか知らないけれど、夢は、叶えるために、干からびかけている心に、お前は、悲しい瞳で古い感受性で生き延びようとしている「ヒトデ」のような運命に恵まれてるのさと支えて、教えてあげたい。

僕は、豹のように雄たけびを上げる豹のように孤独だから、落ち着くのさ……

水滴が、夜の帳を破った。

僕は、寝巻きに着替え、後ろを向けて横たわる彼女の隣に身を投げた。そっと。

彼女の頭に手を掛け、指を髪に絡め存在を強く、知らせた。彼女は、子猫のような少し怯える瞳で、僕を見た。僕は、その瞳をずっと見つめた。見つめた。

「私を殴りたいのね」

「そう……でも、頑張るよ」

「いいのよ、我慢しなくても」

「私は、あなたの妻なんだから、どうしてもいいのよ」

「…………」

「君は、強いね。本当に殴られたら、嫌な癖に」

「平気よ。覚悟は、してるわ」

「結婚する時から、膏市のそういう所、分かってたわ」

「きれいだよ……沙良」

「ごまかすのが上手いよね……膏市は……」

君の髪は、パサパサに乾いて、まるで真夏の道路にへたばるミミズのように、潤いがまったく見られなかった。僕は、結婚する前から、その沙良の髪が、その髪を見るのが心地良かった。君のためなら僕が、潤いを、「命」を注いであげると心に描いたあの時に、僕は、永遠を誓ったのかもしれない。きれい過ぎる……やっぱ君と結婚して良かった。

「ねえ、膏市は、悲しみに溺れたことってある?」

「あるよ……お風呂に入ってる時なんて大抵そうだよ」

「湯船に浸かってる時は、絶望という意味の希望の華やかさのことについて考えるし、体を洗ってる時は、恵まれない子供達が生まれてきた理由を強く考える。沙良は? 悲しみに満たされた時、寒くて孤独で凍え死にそうになったことってある?」

「昨日、自転車にまたがった時、思ったわ……悲しみって、孤独って……寂しいからじゃなくて、幸せが溢れた時、零れるんだって……だから、自殺する人って、前の日、何もなかったのに、突然するんだよ」

「そうか……そうかもね……」

「……今夜は、そろそろ寝よっか……」

「うん、そうだね」

青い、灯篭が僕と沙良の傷を埋めてゆく……この世に僕らの居場所なんてないのかもしれない。

「沙良……」

「膏市……」

べッドの中で、手を絡め合い、寂しさを埋めあう僕らは、星が、笑う隙間も見逃さず、交尾をするシャム猫のようだ。

 

次の日、僕は、朝、起きて、ゴミ出しをした。今週は、僕が、当番だ。男女同権、それは、僕の努力している、そして、この世界の絶対的なものだ。ドアを開けた。いい香りが匂ってきた。

テーブルの上には、ベーコンエッグと、パンと、そして、ジャム、昨日の残りの肉じゃがが並べてあった。

朝は、いつも、慌しく、過ぎる。

「いただきます!!」

おいしかった。

「ねえ、帰りに寄りたい所あるんだけれど、いい?」

「いいよ、遅くても待ってるから」

「ありがとう」

僕が、先に家を出た。

沙良は、まだ部屋で何か準備をしているようだった。

「いってきまーす」

返事は、なかった。

電車は、熱く、息苦しくなる。でも、これが、世界のサラリーマンの宿命だと言い聞かし、乗り切る。でも、たまに、思う。この人達は、いったい何を考えて、何のために働いて生きているのだろう。若い頃は、もっと夢があったろうに、いったい何が縁でサラリーマンなどになったのだろう……愛する人のため。自分のため。きれい事を言ってみても、格好をつけても、言い逃れをしてるようにしか僕には、聞こえない。この世界から、義理事を取り払ってしまったら、何も継続は、続かないだろう。理由もなく、すること。それが、仕事なのだ。

僕が沙良と結婚したのも、そんな社会の隅で、小さな輝きを分け合う相手を見つけたと思ったからだろう。

彼女の瞳を見ていると、孤独が、さらに強調され、何かに支配されてるように、気分が高まる。それは、とても居心地が良く、その場から離れたくなくなる。もう、僕は、彼女にとり憑かれてしまったのだ。電車の窓から車内に差し込む日差しがあたたかい。孤独っていうものを、すべての「孤独達」を祝福してくれてるかのように思った。

帰ると、やはり沙良は、帰ってなかった。

僕は、冷蔵庫のシャンパンを開け、ダイニングテーブルの上に置き、グラスに注いだ。

泡がプクプクと浮いてくる。

シャンパンは、何を思って地を這うのだろう。彼らには、彼らの事情があるのだろうけど、美しいものは、孤独だというのは、古代の哲学者のふざけて言った戯言なのだろう。彼らにそんな権利は、ない。人間も同じ。満たしきれない愛情をどこかにぶつけたくて、相手を探しているだけの行為さ。それが、結婚というもの。誰も、そのルールに脅かされてするんだ。ほとんど、「脅迫」というものだ。それでも、上手くいくのは、この世界が、平和だからだ。平和のありがたみ。僕は、身に沁みて分かる。彼女も、それを分かるだろう。

時刻が、午前〇時を差した時、玄関のカギの音がした。

沙良が、酔っぱらって玄関に倒れた。

倒れている沙良の体を起こそうとすると、「何するのよ! 私は、自立した女よ! 自分で起きれるわよ!」そう言った。

「はい、はい、分かったよ。自立した女ね」

その時、彼女は、いままでで見たことのないくらい「悲しげ」な瞳の表情をしていた。

「ど、どうしたの?」

「何かあったの?」

そう言いかけて、僕は、気付いた。前にも、こんなことがあった。酔って帰って来た彼女は、べッドに倒れこみ、寝たかと思ったら、こう囁いた。

「私……王が滅びた国の夢みたい……」

「私ね……その国で輝いたの……」

「朽ち果てた夢ってその後、どうなると思う?……」

「その後、どんなに輝いたって、惨めなだけなのよ」

「誰もいない国で、栄えたことを誇りに思うように、惨めに輝くだけなのよ……」

「主がいない国で、その国の偉大さを示すように私は、輝くの……」

「輝くの…………」

そう言いながら彼女は、眠りに堕ちていった……

そんな時の何か、もう、この世の終わりを悟ったかのような彼女の行動……「彼女は、一人になりたいんだ。でも、悲しみが多すぎて体が支えきれないんだ」

きっと今もそう。一人になりたいけど、寂しいんだ。

「僕が支えてあげなきゃ」

僕は、彼女を抱きしめた。

「うっ」

彼女は、小さい呻き声を上げた。

「いいんだよ……」

彼女の体が、上下しているのが分かった。

「うえーん」

彼女は、声を上げて泣いた。

僕は、泣き止むまで、ずっと抱きしめてた。

 

次の日の朝、彼女は、僕がゴミ出しから帰ってくると、ぬっと獣のように奥の部屋から歩いてきた。

「おはよう、昨日は、大変だったみたいだね」

「そうなのよ……聞いてくれる? 部長ったら、私が潰れるまで飲ますの」

「私、タクシーを降りるまで覚えてるの」

「何か迷惑かけた?」

「別に……いつもの君だったよ」

「そう……」

「さっき外に出たら、青い澄んだ青空だったよ」

「心が、洗われたよ……」

「静かに、今日、一日が始まるんだなって思った」

「そう……」

「青って素敵な色よね……」

「すべてのものは、『青』から生まれたって思うわ」

「『青』……溶け込めたら、いいね。子供のように……」

「昨日、接待みたいなものだったの?」

「うん、初めは、同僚の友達と飲んでたんだけど、途中で、上司が店に入ってきちゃって別のものになっちゃったの」

「最悪だね」

「本当、もう、忘れたい」

「今日は、僕がご飯作るよ」

「ありがとう」

ダイニングテーブルには、半分ぐらい飲みかけのシャンパンが置いてあった。

「あっこれ昨日、忘れてたわ……」

「昨日、本当に、何もなかった?」

「なかった」

「ふうん……」

 

その夜、僕と、沙良は、再び交わった。

彼女は、その時、何も言わない。

意思表示は、頷くか、首を横に振るだけだ。大抵は、頷く。

上から暗闇で見る彼女の瞳は、さらに深く沈んでいるように思える。

――彼女が欲しい――

意思と欲望に体を揺らして、僕と、彼女は、夜の蛍というより、星の屑というより、世界が空だとしたら、その下で蠢く灯篭流しの舟のような、この世の果てに、向かって身を進めて行く世界という物語の主人公になった。

 

雨の音が、響く……

2010年11月13日公開

© 2010 GLASS

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