浦和駅西口徒歩五分

小林TKG

エセー

1,896文字

古賀コン5に話を書いてから気持ちが楽になってきた気がしますので、せっかくだし書いておこうと思いました。

浦和駅西口から徒歩五分、徒歩五分も必要ないかもしれません。とりあえず交番じゃない方向に歩いていくと、信号、横断歩道があって、それを渡った先には伊勢丹があります。浦和伊勢丹です。

伊勢丹というのはセレブリティな人達が行く場所です。私の様な貧乏人には敷居が高く、特段に用向きも無いのですが、その伊勢丹の通りの、通りって言うのか、ちょっと詳しくはわかりませんが、とりあえず伊勢丹の前の道、動物園の檻みたいな喫煙所の向かい側。そこにディスプレイって言うのか、これもあんまりよく知らないのでわからないんですけども、Louis Vuittonのディスプレイ、ディスプレイ? があります。浦和駅西口を通る時、私はいつもそのディスプレイを眺めます。一時、もうかなり前の話になりますが、ある一時のLouis Vuittonのディスプレイがまるで、異世界への扉みたいだった時があるんです。ネオンチューブバーと言うのか、ネオン管と言うのか、そういうのが魔法陣の様に丸く象られていて、あの時はまあ、何というか、

「あらまあ素敵ング」

と私はイング系の感想を抱いたのです。もしも私がそれまでの人生の中でLouis Vuittonというものに一度でも触れていて、例えばまあ、貧乏人だろうと何だろうと、キーケースとか、パスケースとか、Louis Vuittonの何か一つでも持っていたとしたら、またもう一個何か買おうかしら。と思ったと思います。残念ながら縁もゆかりもないハイブランドの手合いですし、しかも伊勢丹ですし。結果的には私が伊勢丹の敷居をまたぐという事はありませんでしたが、それからは、なんというか、そこを通るたびにLouis Vuittonのディスプレイを眺めてしまうのです。いつの間にか、ディスプレイという感じではなくなって、今は写真、ポスター、ではないと思うんだけど、窓枠いっぱいに大きなピクチャが貼られるようになりましたが、でも、そこを通るたびに私はそれ、Louis Vuittonのそれを眺めてしまうのです。立ち止まったりはしません。ただ、ちらりと、「今日もいるね」という感じで。そこを通る度、不変的、普遍的な存在でも眺めるみたいに。「今日もいたね」と思うのです。

勿論、誰もが知る、私でさえ存在は知ってるLouis Vuittonですから、そのデザインというか、今はもうピクチャですけども、そのピクチャは定期的に変わる。別のデザインのものに差し代わります。あれがどういうシステム、スケジュールで変わっているのか、それはわかりません。まだこれか、と思う時もあれば、あれもう変わっちゃってる。と思う時もあります。四季の経過によって変わるのかなあと思ったりもしましたが、どうもそういうわけでも無い気もします。二十四節気で変わってるのかと思ったりもしますが、そうだという確証があるわけでもありません。

それで。

それで、今。今現在のそれ。Louis Vuittonのそれを見ると、私は毎回ロスバケの事を思い出します。

ロスバケというのはロスト・バケーションの事です。ロスト・バケーションというのは映画です。鮫の出てくる映画です。

今のLouis Vuittonのそれを見る度に、ロスバケを思い出すなあ。と思います。感じます。考えます。私が思い出そうとして思い出すのではなく、勝手に出てくる感じです。ロスバケが。

脳内からロスバケが出てくるのです。通るだけで、その前を通るだけで、通ると思うだけでも出てきます。ロスバケが。

「今日もこの後、伊勢丹の前を通る」

と考えるだけで、ロスバケが出てくるのです。それでロスバケが出てくると、47mも出てきます。47mというのは、海底47mの事です。海底47mというのも映画です。

ロスバケが出てくると自動的に47mも出てくるのです。

私にとって、ロスバケは陽で47mは隠なのです。

この二つはセットなのです。陰と陽なのです。

だから今の浦和駅の西口の伊勢丹のLouis Vuittonのそれを見ると、見る度に、思うだけでも、考えるだけでも、私の中でロスバケが出てきて、それに伴って47mも出てくるのです。

毎回。

毎回、出てくるので、もう毎回出て来るなあ。と思って煩わしくなったり、感じたりする時もあります。

でもきっと、浦和駅西口の伊勢丹のLouis Vuittonの今のピクチャからまた別のピクチャに変わってしまったら、その時は寂しく思うだろうなと思います。昔、Louis Vuittonのディスプレイが異世界に続く扉みたいのだったのから、変わった時、悲しくなったのと同じように。

「無常だなあ」

そう感じてしまうだろうなと思います。

2024年6月6日公開

© 2024 小林TKG

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