マッチングアプリ日誌８

プロフィールに顔写真を登録していない男性が多いことは最初、コケシにとって意外であった。実際に会ったり交際したりを目的としているならば、あらかじめ顔は分かっていた方がいい。時間をかけてメッセージのやり取りをしたのに、会ったら全くタイプではなかったとなれば時間がもったいないし、何より男性登録者数は女性のそれより断然多いのだ。競争に勝ち抜かなくてはいけないのだから、少しでも女性登録者の気を引くために顔写真を登録しておくべきではないか。やる気を見せろ。そのように思っていたコケシだったが、アプリ活動を続けていると、それもさもありなん、男の顔見たくない現象が起きたのである。下手に顔を出すより、無機物のアイコンの方がマッチングしやすいのかもしれない。

男性ですら顔を見せずに活動しているというのに、目を閉じているとは言え顔を出しているコケシに対して「顔が分からないのでタイプかどうか分からない」と1通目から言ってきたチョイ悪は何だったのか。メッセージ処女のコケシはチョイ悪が1通目の男だったからそういうものかと真に受けてしまったが、やはりあいつは過剰要求男だった。こちらが処女だと言っているのに、いきなりアナルセックスしようと言ってくるようなもんである。「あっぶね！ 写真送らんで良かったわ」コケシはMッ気があるので、過剰要求に応えてしまいがちだ。ちょっと無理してるな、と思いながら応えている自分に気持ちよくなってしまう。しかし要求とは満たされた時点で当たり前のものとなる。無理をして頑張っても、相手はいつしかそれが当然としか感じなくなりコケシは最終的に絞りとられたボロ雑巾となる。金を取られなかったらいいという話ではない。時間も労力も体力も、自分の大切な資源なのである。貴重な人生資源を無駄遣いさせる男ならいない方がましだ。人生44年、もうすぐ45年も生きて何度も失敗しているとさすがに学習する。求められれば尻を差し出してしまうタイプだからこそ、選択が大事なのだ。「若いおなごさんにも教えてあげたいわ」

コケシは気分を変えるべく「コミュニティ機能」を使ってみることにした。「コミュニティ機能」とは、コケシが若かりし頃に存在した大人気SNS「ミクシィ」に搭載されていたものと同じ機能だ。コミュニティに登録すると掲示板に書き込みが出来るほか、登録コミュニティのサムネイル画像が一覧表示される。「◯◯大好き！」「◯◯駅で飲んでる人集合」「年の差なんて気にしない」「正直、会ってみないと何も分からない」など、登録しているだけで自分の趣味や志向を表すことが出来る。なるほど、こういった機能を使えば会話のきっかけになりうるし、アルゴリズムが同じコミュニティに入っている人をマッチングさせたりするのかもしれない。とりあえず何か登録してみるか、と見ているとコミュニティ「映画シ〇・ウルトラマン」が目に入った。2022年5月時点で公開されたばかりの「映画シ〇・ウルトラマン」はホットな話題だったのだ。どれどれ、みんなどんなことを書いているのか。

(自撮りの男アイコンA)　見てきました！胸が熱くなりました。感無量です。

(自撮りの男アイコンB)　原作への愛にあふれていましたね。面白かったです。

そこには短い好評価の感想が並んでいた。書き込んでいるのは男性ばかりだった。「この人達はマッチングアプリで何をしてるんや？」コケシは意味が分からなかった。異性間交際をするためのアプリで、男性ばかりが書き込む掲示板に毒にも薬にもならない感想を書く。それに何の意味があるのだろうか。無、ではないか。感想のやり取りがしたいなら、別の適切な空間があるのではないのか、マッチングアプリではなく。コケシはモヤモヤしてきた。そしてとんでもないものを発見してしまった。

(若いお嬢さんのアイコン)　特撮好きなので初日に一人で見てきました(笑)　面白かったです。もう1回見ます！

その書き込みには、イイネがたくさん付いているほか、「一人で見に行ってえらい！」などのリプライが付いていたのだ。なんだこれは。これがオタサーの姫、というやつなのか？　コケシの堪忍袋は我慢の限界を迎えていた。

つづく

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