日常。(58)

日常。(第51話)

mina

小説

1,214文字

例えば銀座にある高級鮨店の鮨懐石、一番値が張るもので三万円
そして新宿にある超高層ホテルに週末一人で宿泊、美しい都会の夜景を独り占めにして二万七千五百円、約三万円

君と過ごす時間百二十分、指名料も合わせて約三万円

テレクラで知り合った主婦、四十五歳の超熟女と不倫デート、食事代とホテル代に約一万円と彼女に渡すお金一万円で合計二万円
会社の飲み会の後、終電を逃してしまい、ネットカフェに泊まるハメに…ソーシャルネットワーク内のコミュニティで出会った高校生に誘われラブホテルへ
寂しい家出少女らしく二万円渡したら喜んだ
彼女からは時々連絡があり、時々会う仲に

君と過ごす時間百二十分、指名料も合わせて約三万円

僕は二十代で結婚して、結婚一年目で子供が産まれ、会社もそこそこイイところの社員で、家族三人で幸せに暮らしていた
まだまだ遊びたかったというのが正直なところだったけど、単純に子供は可愛かったし、妻の料理が美味しかった
僕の結婚生活は順調だ、と思っていた

「そうなんだ、オザワさんってバツイチだったんだ」
「そう、なんか再婚する気になれなくてね」
「じゃあもうずっと独り?」
「あぁ、でも気楽だよ」
「…まぁ再婚する気になったら私にも声かけてよね」
「うまいね~」
「割と本気なんだけどなぁ」
君は僕が欲しい言葉をくれる
「あ…そこ気持ちいい…」
「ココ?」
「んっ…!ソコ…あっ…」
君は僕を全身でカンジてくれる
「イッちゃうよ…イッていい?」
「いいよ」
「あっ…!」
君には僕が必要なんだろう?

         ・          

離婚した理由は妻の浮気、子供は妻の元へ
きっとこの女の子ぐらいの年齢になっている頃だろう
「おじさん今日元気ないね?」
「そうか?」
「奥さんと喧嘩したとか?」
「まぁそんなもんかな」
「…おじさん子供いるの?」
「…いないよ」
「そっか…よかった」
「なんで?」
「うーん…なんとなく?」
女の子はもう半年も家に帰ってないらしい
ネットで相手を見つけてはお金をもらい生活しているようだ
「私…家に居場所が無いんだ」
「 … 」
この子は…この子は僕と同じだ、きっと僕と同じなんだ
「おじさん泣いてるの?」
「…泣いてないよ」

君と過ごす時間百二十分、指名料も合わせて約三万円

僕にはもうずっと帰る場所が無い
お金で全て賄えるけど、美味しい鮨を独りで食べても美味しくないし、綺麗な夜景を独り占めしたって…意味が無い
僕が独りで過ごす膨大な時間を寂しくないようにお金で…紛らわしているだけ

君はこんな僕を受け入れてくれる?

         ・

月に二回ぐらいロングコースで、私に入ってくれるオザワさん
この前バツイチだって初めて知った
もうずっと独りだって言ってて、私が再婚する気になったら声かけてって冗談で言ったらちょっと本気にしてて可愛かったな…今日も来てくれたら嬉しいのに

僕はまた君に逢いに行く

「こんばんは!」
「こんばんは」
「また逢えて嬉しい」
「本当に?」
「本当だよ」
「あっ…」
オザワさんに力強く抱きしめられて…私のカラダは敏感に反応した

               end     

2015年7月20日公開

作品集『日常。』第51話 (全70話)

© 2015 mina

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