彼はいつも同じ曜日の同じ時間にやってきた。私のその時間はいつも彼に支配されていた。毎週同じ時間に彼と顔を合わせるという行為は私の心の中に情というものを作り上げていき、彼氏ではない彼を私は自分で彼氏のようなモノに作り上げてしまっていた。
彼との関係は恋人のようで恋人ではなかった。
でもそれは…私だけが思っていることであって、彼の方は彼氏のようなモノではなくて、本当に私のことを彼女だって思っていたみたいだった。
彼はお金を払っているということをいつの間にか忘れているみたいだった。
だけどそれも私だけが思っていたことみたいで…。
彼は全てを理解していた。
「今度の日曜日は逢いにこられないと思うんだ」
「そうなんだ…お仕事?」
「まぁそうだね」
「そっか、じゃぁ私もお仕事休んじゃおうかな」
「…もしよかったら今度の日曜日、外で食事とかどうかな?」
「えっ…」
「あっ、嫌ならいいんだけど…いつも同じラブホテルだし、たまには外でキミと美味しいモノでもって思ったんだ」
私は悩んでいた。彼と食事するのは嫌じゃないんだけど、彼と腕を組んで外を歩いたり出来るんだろうかって…。
「ごめん、急に食事なんかに誘っちゃって」
「ううん、そんなこと」
彼は私より年上で紳士的なオジサマといった雰囲気の人だった。身なりもきちんとしているし、一緒に街を歩いていても決して恥ずかしくはない人だと思う。でも…
「ごめんなさい、私やっぱり仕事に出ます」
「キミが謝ることじゃないよ、ごめんね僕の方こそ突然」
「 … 」
どうしても彼と手を繋いだり、腕を組んだりということが私には出来ない気がした。
「それじゃ、また」
「はい、お仕事頑張って下さいね」
またって言ってくれたけど、今日で彼と逢うのは、逢えるのは最後かも知れないと思いながら、私は彼の後ろ姿を見ていた。
「 … 」
何だか涙が出てきちゃって、自分でも驚いた。人との別れはどんな別れでも悲しいなんて思ったみたい。
私は彼の気持ちなんて考えずに勝手に別れを決めていた。
ひとりよがりな切ない夜だった。
「こんばんは」
「…今日は逢えないって言ってたのに」
「あぁ仕事がね、早く片付いたんだ」
「そう…」
「逢いにきちゃって迷惑だったかな?」
「ううん、全然そんなことないけど…もう逢えないって思ってたから」
「何で、そう思ったの?」
「…何となくかな?」
いつも通りの彼がそこにいた。
「じゃぁまた来週」
「あ…うん」
「今日も楽しかったよ」
「私も…」
私、本当に楽しかったんだろうか?彼がいつも通りに現れて、いつもと同じように一緒の時間を過ごして、私…楽しかったんだろうか
?私…彼のことを好きにならなくちゃいけないのかな?私…
「こんばんは」
「こんばんは、今日はスーツ姿なんですね」
「うん、どうかな?」
「見たことなかったから新鮮!」
「そう?」
私はいつの間にか彼のことを好きになろうと努力していた。彼を好きにならなくちゃいけない気がしたから。
「今日はすごく敏感だね」
「そう…ですか…?」
「キミがこんなにカンジてくれるなら…」
彼にカラダを舐めまわされてカンジなくちゃいけないと思っている自分がいた。
「ん…」
「ココがカンジる?」
「あっ…もうちょっと上の方…」
「ココ?」
「ソコ…強く…強くシテ…」
彼は私の言葉通りに私を責めてくれた。私は彼を導いた。
「あっ…イクッ…」
彼の舌と唾液の感触が伝わってくる。
「イッてくれて嬉しいよ」
そう言いながら、彼はニヤッと笑った。私はその彼の顔に恐怖を感じてしまって、イッたことを…後悔してしまった。
end
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