ゆれた。
重いまぶたをもちあげると、おじさんがのぞき込んでいた。制服をきたおじさんだ。その両うでの力がおれの両肩にかかっている。
「お客さん、もう終着駅だよ」
おじさんの口臭がとんでくる。
「はい」
とおれは言った。
「だいじょうぶかい、もう電車ないよ」
「ここがもより駅なので」
そう言って、おれは電車をでた。
出口がわからなかった。だが、もより駅と言ったてまえ、どこにいけばそとに出られるのか、だれかに訊くのははばかられた。
しばらく駅内を徘徊し、改札を見つけた。カード乗車券のチャージ残額が心配だったが、足りた。のこり七十円になった。
タクシーをひろった。財布の中をかくにんすると、五百円しかなかった。だが、乗ってしまったものはしかたがなかった。
「もしかして芸人さん」
と運転手が言った。
「はい」
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