ロバート・コーンウォリスには怪しい点が多い。
まずダイアナ死亡時。
ダイアナ・クーパーに区画を聞こうとして電話をした際に口論をしておりかけ直すと言われた、と言っている(p96)。この通りであれば、実際に区画を聞き出すことなく夫人が亡くなっている。しかし、実際には滞りなく葬儀は行われている。また、ケンワージー弁護の理事会で口論をしておらず円満退任したという証言もある(p238)。
区画を聞きに自宅へ行き、その際に支払いに使ったクレジットカードの再確認が必要等と言って出している間にカーテンの紐を外し、絞殺したと考えることができる。
次に、棺の目覚まし時計の時。
葬儀の最中に入り口でアイリーンとひっそりと何かやりとりをしているのをわざわざ目撃している。何もなければこのような場面を書くだろうか? 目覚まし時計をどこかに予め隠しておいて、この際にアイリーンに回収して棺に入れる指示をしたではないか。アイリーンもグルということになる。
さらに、ダミアン死亡後の自宅訪問時も不審な点が目立つ。
「ねえ、どうしてまだそのスーツを着ているの? さっき着替えるはずじゃなかった?」(p270)
と、バーバラに言われている。まさに洗濯をしようとしているのにその日着てきた服をそのまま着ている。血が付いているのをジャケットで隠しているからだ。血が付いた服を家の中に隠していてはやんちゃ盛りの子供もいるのだから何かの拍子に露呈する可能性がある。その証拠にお話をせがんでまとわりつく子供たちをわざわざ庭に誘導している。服が引っ張られるのを恐れたのではないだろうか。
さらに、聞かれてもいないのにゴドウィンのことを話す(p280)。推理を誤った方向へ誘導しようとしているのではないか。
本文内でも「とはいえ、そのほかの部分は、はっきりと犯人の正体を指し示しているものも含め、すべて正確に描写されている。」(p60)とあることから、犯人の重要な手掛かりは第一章で提示されているはずだ。現場検証の場面すら含まれていない。ここで分かっているのはダイアナがある程度の金を持っており、著名な俳優の母親であり、自分の葬儀を申し込んでから死んだということだ。第一章で明確な区別の付く個人として登場しているのはダイアナとアイリーンとコーンウォリスだけだ。先述の理由によりこの中で最も怪しいのはコーンウォリスである。
では、なぜコーンウォリスはダイアナを殺したのか。恐らく何か芝居が関係している。
さらに、ホーソーンは「ダイアナ・クーパーはどんな心境で、葬儀屋へ向かったと思うか? そして葬儀屋に着いたとき、まず目に飛びこんできたのは何だった?」(p324)と言っている。
葬儀屋に着いた時にあったのはハムレットの一節である。ハムレットはRADAでの演目でダミアンの出世作になっている。それがわざわざコーンウォリスの営む葬儀屋にかけられているとなると、コーンウォリスは件のハムレットと何か関係があると考えられる。劇場のプロデューサーであるレイモンド・クルーンズもも何か関係ありそうだが一章でほぼ存在感がないので、あまり重要な役割ではないのだろう。
コーンウォリスは葬儀屋を継ぐ前は「若気の至り」をしていたという(p277)し、息子が熱心に芝居の練習をしていたことに対してバーバラが「芝居好きは血筋」と言っている(p269)。
また、21章のタイトルが「RADA」なのでRADAがラストまでの流れに関係するのはまず間違いないので、コーンウォリスはRADAにおり、ダミアンやグレースの関係者と考えられる。そしてp381とp382でここに来て新しい登場人物が出てきている。アマンダ・リーとダン・ロバーツである。ダン・ロバーツはコーンウォリスの芸名だ。本名にも近い。p92でコーンウォリスのフルネームがでているが「ロバート・ダニエル・コーンウォリス」とある。
さらに、ダミアンの元カノだったアマンダ・リーと、ダン・ロバーツは恋仲だったのではないかとグレースが言っている(p396)ので、そのあたりの人間関係が動機に関係しているように思う。実は噂通りコーンウォリスとダミアンは恋仲で、変わってしまった元恋人を知っていっそ殺してしまおうと思ったのだとか、アマンダ・リーを殺したのがダミアンでその復讐だとか、その辺りだと思う。
わざわざ棺からゴドウィン家の被害者が好きな歌を流すあたり、ダミアンもあの事故と何か関係しており、実は運転していたのがダミアンだったのではないかとも思ったがそれは作中で否定されたため違うのだろう。主人公の妄想と同じ発想である。
なのでダイアナ夫人はダミアンを殺すための手段として殺されたのだろう。ただ、なぜナイジェル・ウェストンの家が放火されたのが主人公のせいなのかは分からない。どうやってゴドウィンの無心に便乗して殺害計画を立てたのかも不明だ。ダイアナ夫人は殺されるのを分かっていて葬儀の申込みをしたのではなく、葬儀の申し込みをしたタイミングで殺すような計画をゴドウィンが仕組んだのではないかと思うが、どうやってしたのかが分からない。実は長年計画実行のタイミングを見計らうためにあらかじめダイアナ夫人をストーカーしていておき、無心してきたゴドウィンとのトラブルを知り、事前に葬儀のセールスでもしたのだろうか。それなら事前問い合わせなしで葬儀屋にやってきたくだりがおかしくなるので、タイミングを見計らって葬儀のポスティングをここぞとばかりにしたのだろうか。
そして、謎解き以外のラストまでの展開。
これはただの想像の域を出ないのだがp46に現れた丸顔の女性はホーソーンが主人公にノンフィクション小説を書かせるために仕組んだ人だと思っているので、そのあたりの種明かしもあるだろう。あの明らかに怪しい女性を投げっぱなしでは終わらない気がする。
ホーソーンに関して何かあると思う。一時はホーソーン黒幕説も考えたが、アンソニー・ホロヴィッツの経歴を調べたところ、どうやらこの話はシリーズものらしいので黒幕ではないのだろう。
"繋がらないピースが残ったまま。"へのコメント 0件