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井戸語り

渡海 小波津

即興小説で書いたものです
テーマ:最強の村 小道具:鍋

タグ: #純文学

小説

1,138文字

ここは、とある山村である。季節は春、村のところどころには桜の木が綿菓子のように花を飾る。

その村の中央に井戸が見える。その井戸は固く蓋がされており、今は使われていない。

私がその村を訪れたのは一昨年前の初夏であった。やはり井戸には蓋がされており、今は使われていないのだと私は思っただけであったのだ。この村に来た理由は、何でもない気分転換に来たに過ぎないのだ。知らない田舎でゆっくりしたいという都会人じみた安易な考えからだ。

事前に村の一軒――もともと民宿として頼まれることがよくあるらしい――にお願いして2泊ほどする予定でいた。その村に行ったときに私がはじめに驚いたこ とはこの村には男がいない、ということだった。村にいるのは女、子どもばかりで畑仕事をして生活を賄っているようだった。たまに私のような都会者がやって きては臨時収入が入るため、村人の生活は成り立っているらしい。

私が泊まった家は家主とその娘の二人暮らしの家であった。家は居間と土間から なっており、時代まで違うように思えた。そこの家主の女性、正直言っておばさんが、また親切にあれこれ勧めてくれるのだ。食事はどんなものがいいかとか、 布団はこれで寒くないかとか、仕舞いには家の娘と夫婦になってくれたらなどと言い出す始末であった。私も長旅の疲れと酒の勢いもあって、家主の話に合わせ てあれこれ調子の好いことを言っていたような気がする。

事が起こったのは、私がほろ酔いになって寝てからすぐのことだったろう。明り取りの小窓 から漏れる月光を受けた若い娘の裸体が白く暗い部屋に浮かび上がる。私は夢半ばに、なぜこの娘は裸になっているのだろうか、と考えようとしたが眠気ともう 一つの感情によってできずにいた。

娘は私に馬乗りになり、浴衣を剥ぐと一物を強引に掴み、知っている様子でそれを扱う。私は突然のことに驚くあ まり、そして娘の裸体の白さとその無言での行為に目を奪われたがために、何の抵抗もせず、為すがままになっていた。娘が行為に耽る最中、私は家主はどこで どうしているのだろうかと思った。こんな家だ。ばれないはずがない。が、家主の気配はなく、寝息の一つも聞こえないのだ。もともとこの家には私と娘しかい なかったかのようにただ静寂と白い光があるのみであった。

娘は終わるとやはり何も言わず、自分の寝床へと戻っていき、それと同時に表の戸が開き家主が戻ってくる。私の姿など気付かぬといった様子でやはり何食わぬように自分の寝床へと戻っていったのだ。

 

それから娘は子宝に恵まれた。めんこい女児で娘にそっくりだ。

そして、私は井戸にいる。翌日家主に鍋にでもされたのだろう。四肢をもがれ、ばらばらにされた私は井戸の、蓋のされた井戸の底で春を感じているのである。

© 2012 渡海 小波津 ( 2012年11月27日公開

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