明後日の方を向いたまま

諏訪真

小説

808文字

好きな人の目も、俺を好きだと言ってくれた人の目も見ることができず、ずっと明後日の方を向いていた。

掌編祭参加作品
https://note.com/sait3110c/n/n6667047e3d08

今、好きな人に呼び出されている。その人からの告白ではないことは理解している。なぜならその人には好きな人がいるらしいと噂で聞いていたからだ。

呼び出された場所は、友人達とのたまり場になっている公園の、外れにある石碑の裏側だった。石碑の裏には、既に待ち人がいた。

待ち人は俺を呼び出した人の友達で、俺はその人と話したことは殆ど無く、俺にとって印象の薄い人だ。名前は知っている程度の繋がりだった。その人はもう話す前に泣きそうな顔をしていた。
「あんたのこと、ずっと好きだったんだって」

俺の答えは決まっていた。だが切り出し方がわからない。だから俺はずっと、始めから終わりまで腕時計を弄っていた。まったく無意味なアラームの設定をしていた気がするが、そんなことはどうだっていい。
「好きな人、いるんだよね?」と、好きな人から聞かれて、うん、と応えるしかなかった。本当に、ここにいる女子は察しが良い。だから俺のこんなふざけた態度でも俺の内心は理解されるし、ゆるされてしまう。察しが悪いのは俺だけだ。だから、その子は結局泣いていたかどうか、分からなかった。誰の目も直視できなかったからだ。

 

後日、二月十四日にあの時俺を呼んだ二人からそれぞれチョコレートを貰った。片方は義理で、もう片方は丁寧なラッピングの本命だった。その時は純粋に嬉しかった。だがその後、あれだけぞんざいな扱いをしたことに対しても、これだけ丁寧な物を贈ってくれたことに罪悪感が湧き上がってきた。

それから暫く経ってホワイトデーを前に俺は友人とデパ地下まで出かけていた。色んな商品があるが、何を選べばいいのか分からなかった。あの二人は何が好きなのか、それさえ知らなかったからだ。知らない理由はあの時も、そして今もずっと明後日の方を向いたままだったからだろうか。

俺は結局選定するのも渡すのも友人に任せきった。あの二人のどちらからも、ありがとうという言葉を聞きたくなかった。

2021年1月26日公開

© 2021 諏訪真

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