お母さんと話したあと、彼が石だったのに気付いて、呆然としたわたしはコーヒーも飲めなくなって。
だんだん開きっぱなしの扉の気分になったからさぁ。だめだ。
気付いたらこうして彼とはおさらばして、ずっと考えてて、でも駄目。だめ……。しばらく経って、うーん、別つ。
ずっと屈んで腰がいたいよ。大腿骨が一番太かった。
「じゃあ一つずつ、こう考えていきましょう?」
あんだれぱっ、と鳴く妖精さん。とうとう一人じゃ何もできなくなったわたしに、見かねて話しかけてくれる。
「付き合っていたのはどのくらい?」
「五年」
「一緒に暮らしていたの?」
「ううん」
「じゃあ生活費とかは考えなくていいよね」
妖精さんはひらひら飛びながら考えている。ぬけがらのわたしはもう無理っぽい。
「遠距離でしょ?何回来てもらったんだろう」
「毎年二回。彼の負担は一回往復で二万五千円」
「一年目はまだ遠距離じゃないから、四年間ね。ということは二十万円だ。なるほど」
よしよし、と妖精さんはわたしを撫でる。そう、こういうのが必要。もうないからね。
「何回したんだっけ?」
「一年目は月二。それ以降は週二」
「ということは一年目は年に大体二十五回だ。よく覚えてるね。来たときは何日泊まってたの?」
あんま好きじゃなかったから覚えてる。
「概ね四日」
「では二年目以降は一年に四回してたんだね。つまり三年間で十二回だ」
わたしはごりごり削られる。ごりごり削る。でも考えなくて良い分まし。イーブン。
「会わせると四年間で三十七回だね。ゴムは十個入り千七百円のを使ってたから大体七千円だ」
大したコストじゃないような気がする。
「あっ、一年目はホテル代どうしてた?」
「彼が払ってた」
「確か八千円だね。月二だから一万六千円。それが十二回だからまあ、十一万円としておこう」
ふんふん、とうなずく妖精さん。
「じゃあ最低限きみとするのに四年間で三十万円はかかってるわけだねえ。安いのかな?」
「どうなんだろ」
「わからないな」
あんだれぱっ。
彼はわたしを石だと思っていたのかなぁ。わたしは石とからだ重ねるのつらかった。石の舌は冷たい。温もりがない。
お母さんが何言ってたのか忘れちゃったんだけど、決定的なことだったのかもしれない。だからわたしは決断したんだけど、記憶が欠落してる。けーつらく、してーるのー。そういう歌。もう、そういうの、のってくれる人いないけど、何かへーきになってる。
まあ?今となっては?わからんし?
「大腿骨はどうすればいい?」
「俺に聞かないでほしいなぁ」
あんだれぱっ。あんだれぱっ。
あっ、あっ。
できた。わお。
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