宮崎氏のスマートフォンに脅迫の電話が掛かって来たのは、『はちみつ』で私と待ち合わせた日から更に一週間程遡る。
その日の朝、宮崎氏は講義のために筑波大学に向かっていた。尤も朝と言っても、宮崎氏が自宅のマンションを出たのは十一時を過ぎての事であった。午後一の講義なので、其れで充分間に合うのである。宮崎氏は首尾好く電車に乗込み、十五分程揺られた後、つくばエクスプレスに乗り換えるため、秋葉原駅で下車した。途端、見計らったかの如く携帯電話が震えた。非通知である。宮崎氏は怪しんで其れに出なかった。十五回程震えて、切れた。おもった以上にしつこかったため、宮崎氏は躰の芯の冷々とする感覚を覚えた。留守電は入っていなかった。次に掛かって来たら出てやろうと心に決め、宮崎氏は、目の前のホームに滑り込んできたつくば行の電車に飛び乗った。車内は空いていたため、ドア直の席に腰を下ろす事が出来た。宮崎氏が座る向かいの席には、眩いばかりの美人が座っていた。
「そんなディティールまで語っていては、話が終らないよ……。」
呆れて私は言った。
「すみません。しかし僕の考では、この女性も相当に怪しい人物なんです。」
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