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青いミルク3

青いミルク(第3話)

三沼薫

青い空に白い雲が溶ける。それは青いミルクだ。

小説

11,730文字

そんな妄想をしてる内に萎えた俺のアレはまた硬く勃起し始めた。垂れ下がった拳銃の銃身がゆっくりと持ち上がり、銃口はこのファンシーな部屋の壁に照準を合わせてる。銃口の先に隠しカメラがあるから、俺ちゃんレンズに向けて微笑みながらピースサインを送っちゃった。お茶目な僕ちゃん、ユーモラスな僕ちゃん、ブラックジョークを理解してる僕ちゃん。やっぱさ人間にはユーモアが必要なのさ。知識だけ詰めこんでも自分で思考できねぇバカに成り下がっちゃうからね。ユーモア、それは人類が発明した最高の一品だ。俺ちゃんはユーモラスな人間には親愛の念を覚えるけど、俺の周りにいる友人たちの冗談はつまらねぇ。何が面白いんだか、下らねぇ会話ばかりして喜んでやがる。だから俺ちゃんはそいつらを殺してみてぇと常日頃から考えてる。ユリは、ユリはユーモアを理解する頭があるんだろうか。いや、ねぇな。お勉強やお読書やらで凝り固まってる脳みそじゃユーモアなんて理解不能だろう。俺が特に好きなのは人の死を題材にしたブラックジョークだ。これを口から発射すると嫌悪感に顔を歪ませる人間が多いんだけどただのジョークじゃん。もっと広い心を持とうぜ、全人類よ。んでもって俺は証拠隠滅をはかってユリの部屋から出て行った。妹の私生活を堪能しつくした俺ちゃんはとりあえず獣じみた欲望を一時的に満足させちゃった。大盛りの牛丼を完食して満腹になった気分だけど、食欲と同じように俺ちゃんの貪欲な獣欲はまた獲物を求めるくらい空腹になるだろう。そろそろこの部屋から脱出キメなきゃいけねぇな、と思ってたところでママが俺を呼ぶ声が階下から響いてきた。ユリとは違いババアのしゃがれ声っていう不協和音を聴いてると不愉快になってくる。パパのダッチワイフでもやってろよ、って考えたけどセックスレスだから欲求不満なんだろう。男は若い頃に性欲が強くて、女は歳を取ると性欲が増すってのは正真正銘の事実なのかもしれねぇな。軽やかに部屋から出てドアを施錠し何気なく自室に戻る僕ちゃん。んでもって安心できる我が城に帰って来た俺は窓の遮光カーテンを何ヵ月かぶりに開けたくなっちゃった。ユリの部屋を物色した後は奇妙な開放感が俺の胸を襲うんだ。バロは何処だ、俺ちゃんの可愛い猫ちゃんは一体何処で優雅に寝ころんでんだ。俺ちゃんは染みだらけの腐臭を放つ布団の上で横になり冷房を全開にして毛布にくるまった。そして指をしゃぶりながらぼんやり壁を見ちゃう。幼少の頃からの悪癖が消えねぇ、ってのは俺ちゃんが何時までも母性を求める子供心を失ってないからに違いねぇ。愛着のある腐臭を放つ布団の臭いを嗅ぎながら深い眠りに落ちるまで数秒前ってとこ。んで俺はユリの裸体を想像しながら親指を吸いまくった。後光を放ちそうなほど神秘的な肢体を思い浮かべてるだけで恍惚とした気分になっちまうよ。きっと表情の方も恍惚としたもんになってんだろう、ってこれ鏡で確認しねぇと分からねぇよな。甘いカフェオレ、愛しいバロ、可憐なユリ、それらが俺ちゃんの幸福を構成してる要素。そのどれが欠けても俺ちゃんっていう自我は維持できない気がする。気がしちゃうんだ。目をつぶると照明の残光が浮かびがってるのを目蓋の裏側で可視できる。その光をユリっていう掛けがえの無い存在と重ね合わせる、そんな作業が俺をハッピーにしてくれる。あれあれーなかなか眠れないぞ、ってさっき昼寝したばっかりだからそりゃ当たり前か。深呼吸して埃だらけの空気を肺に取りこむ。灰になった肺、って感じで俺の呼吸するための臓器は汚濁した空気によって蝕まれてるのか? んな事知ったこっちゃねぇけど、長生き何てしたくねぇけど、死ぬなら病気で死ぬより心臓発作で死んだ方が百倍マシだね。理想は妹で腹上死。俺の人生の果てにはさ、果てにあるのはさ、そん終結だったら良いなって強く強く思っちゃうね。んでもって俺ちゃんは深い闇の中へ意識を沈めて行った。ってつまり眠るって事なんだけど、やっぱ眠りたくても眠れねぇよ。だってユリの部屋を物色した興奮で勃起しちゃってるんだもんね。んで脳内で何か暗黒物質的なものが回転して気持ちよぎて射精寸前ってとこ。俺ちゃんはやっぱさ、俺ちゃんはやっぱね、ユリっていう重力に引きずりこまれた哀れな野ネズミって感じなのかもしれねぇ。この俺様がネズミだなんて信じたくねぇけど、ユリの眼前に立って彼女の姿を見てるとその神々しくも神秘的な雰囲気に精神が飲まれて濁流の中で粉々になっちまうような感覚に襲われる時があるんだ。恐ろしいよあのメスガキは。何であんな透き通った虹彩をしてるんだろうって疑問が頭んなかで宙ぶらりんで左右にぐらぐらと揺れてやんのさ。彼女の分泌液は聖水で、俺はゾンビでそれを浴びれば真人間に戻れるのかな。まぁ真人間なんかにはなりたくないんだけどね。美し過ぎる彼女の肢体を堪能し尽くしたいと思ってる俺ちゃんの胸のなかの扉をこじ開けて心臓を鷲づかみにして取りだして食べて欲しい。もちろんナイフとフォークを使ってお上品に食して欲しい。食すだなんてお上品過ぎる言葉を脳内で用いちゃった俺ちゃんは自分の滑稽さに爆笑しちゃいそうになるものの回転の速度を止めて平常心に戻ろうとするけど心臓は激しく鼓動してんのが自覚できちゃう。興奮して眠れねぇよ、どうしたら良いんだ。ところで何で俺ちゃんってお勉強してこなかったのにこれほどまで脳内語彙力が豊富なんだろうね。それは秘密だよってここにはいない何者かに向けてメッセージを送るのさ。届いてるかい? 俺の心臓の鼓動音が届いてるかい、ユリよ。お前にも音楽みてぇなこの血脈が聴こえるかい? ユリの滑らかな肌を裂いて血しぶきを噴出させてその深紅の液体をすすりたいと思ってる俺ちゃんは脳の回路がとっくのとうに破壊されちゃってるのさ。そうか、ユリを殺せば彼女を永遠に自分の所有物にできるんだって思考がその答えにたどり着いたところで俺は眠ちゃった、ような気がしただけ。気がしただけで思考は冴え渡り眼球は充血してるハズの俺ちゃんの欲望を満足させる獲物は今のところユリだけなのかもしれねぇけど、もしかしたらこの世の何処かには他にも獲物がいるのかもしれねぇ。もしそんな存在がいたとしたら一体俺ちゃんはどんな行動に出ちゃうのかねぇ。自分で自分が分からなくなる時があるよ。とめどなく流れる、ってか噴出する思考は頭蓋に開いた穴に栓をしても円形の縁のすきまから漏れ出る自分にはコントロール出来ねぇどうしようもない代物なのさ。代物ってのはさ、代替品ってことだろ? ってことは俺の思考ってのは何者かの代わりってことなのかなぁ、なんて同じとこをぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる回っちゃってる。はぁ、もう寝よう。昼夜逆転してる俺ちゃんの生活には外の明るいこの時間に眠るのが丁度いい寝心地なのさ。夢なんて見ねぇこの広大なレム睡眠の世界の中に埋没して俺ちゃんは目を覚ますと辺りを見回した。自分の部屋だって事実に気づくまでに数秒の時間を要しちゃう俺の脳は腐敗し始めてもうダメなのかもしれねぇ、ってか脳細胞が役に立たなくなっちゃってるのかもねん。語尾に音符マーク付きでご機嫌にお喋りしたい相手もこの家にゃ一匹もいないって事実を悟った俺ちゃんの内部で渦巻く悲しみ、悲しみ、悲しみっていう連鎖的な永続的な感情。俺ちゃんだって感傷的になっちまう時があってさ、それって特に目を覚まして現実と睡眠の世界が時間っていう金属によって溶接された時がそうなのさ。ぼんやりとした意識のまま無意識に身体を起こし、点けっぱなしのパソコンの前に座る。すると液晶画面に映りこんでいる映像を目にして俺の意識は一気に現実に戻された。四角い液晶の海の中で泳いでる映像ってのは妹の部屋の様子なんだけど、何時もと違う点がありまくり。なんとユリがベッドの上で何者かと裸で絡み合ってやがったのさ。俺の憎悪といったら凄まじいもんがあった。憎しみ憎しみ憎しみ憎しみ、憎悪憎悪憎悪憎悪、愛憎愛憎愛憎愛憎、そんな感情が俺の心臓から送りだされた血液に乗って全身に駆けめぐり脳天まで達した憎悪が旋毛あたりでマグマみてぇに噴火しちゃう。殺そうかと思った。ユリも相手の男もあのイカした包丁っいう先端の尖った切れ味抜群の凶器で殺害してやろうと思った。憎しみの次に俺を襲ったのは怒りから変化した膨大な量の悲しみだった。処女だと思ってたのに裏切られた気分だ。ぶち殺してやるぶち殺してやるぞ、クソ女とクソ男。でもでもでもでもそれ以上に悲しいのよねん。悲しみが胸を締めつけて吐き気がしそうなくらいだし涙が両眼からこぼれ落ちそうなのねん。哀れな僕ちゃん、女神だと思ってた相手がただのヤリマンだって知っちゃった事実に驚愕の念を隠し切れねぇ俺ちゃん。まぁこの部屋では怒りも悲しみも憎悪も隠す相手がいねぇけど。数秒のあいだに連続的な感情の変化を経験した俺の頭はちょっとだけ冷水を浴びせられたみてぇに冷静になった。男の方を観察するとそれは実の父親だったって事実が判明しちゃう。ユリを抱いてる奴がパパだったなんて、この家は一体どうなってんだ。俺ちゃんがママと寝て、ママがパパと寝て、ユリがパパと寝てるっていうこの不可思議な連鎖的現象を脳内にある第三の眼で目の当りっ、てか知覚しちゃった、ってか悟っちゃった俺は何て不様なんだ。この世界中で一番可愛そうな人間が俺なのかもしれねぇ、なんて錯覚しちまいそうだよ。今の俺より不様な奴はなかなかいないだろうけどねん、って脳内で注釈を付けて遊ばないと発狂しそうだよ、マジでさ。マジでマジでマジでマジでマジでさ。どうする、俺はどうしたらいい、考えるんだ俺、深くて広大な思索の海に意識を沈みこませるんだ俺ちゃん。とりあえず俺が出した結論はこのまま食い入るように画面を見つめるってことだ。すると何と隠しカメラに向けてユリがピースサインを送ってきやがった。何てこった、俺ちゃんが部屋に入ったことも物を拝借したことも全部バレてたんだ。じゃあ俺ちゃんって最初から最後まであのメスガキの手のひらの上で滑稽なダンスを踊ってたってわけじゃん。どうしようもないじゃん俺ちゃんって奴は、何てバカなんだ、何て不様なんだ、何て滑稽なんだ、何て道化なんだ、何て何て何て何て、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 意識が宇宙にオルガズム接写で眼球が裏返り己の内側を直視して脳天にぶちまけた感情が天使みてぇに胸に舞いもどって来る瞬間の哀れな自分の気持ち的な概念を破壊する凶器、凶器、凶器。つまり俺ちゃんってばこれ以上ないくらい混乱しちゃってた。概念を打ち砕く俺だけの凶器が今まさに必要なんじゃねぇのかよ。それはよく分からねぇけど、液晶の海で泳ぐみてぇにセックスに興じてる二人を止めたいと心の底から思った。あいつらは愛し合ってんのか、それとも性欲の奴隷なのかはしらねぇけど、セックスするのは初めてじゃないだろう。その証拠にシーツの上に破瓜した証の血液は見当たらねぇし、ユリはパパの上に乗ってリズムを取るみてぇに軽快に腰をふってやがるからさ。ああ、もしあそこにいる男がこの俺ちゃんだったらどれほどの快楽を得られるんだろうか。俺も妹とヤリたいヤリたいヤリたいヤリたい、って駄々をこねながら地団駄を踏んじゃいそうな勢いだ。画面を消せばいいのに俺の視線はモニターに釘付けになってた。これ以上ないくらい硬く勃起してんのが自覚できちゃう。これが鬱勃起ってやつか、って興奮と冷静さがない交ぜになった頭で考えてた。俺ちゃん寝取られて興奮する性的嗜好なんて無いと思ってたのにそうじゃなかったらしい。二匹の獣、いや虫けらは画面の中で体位を変えやがった。フルスピードで様々な体位を駆使して快感をむさぼる二人を見て俺ちゃんは両ひざを抱えながら指しゃぶりしたくなっちゃったの。この年齢になってもガキの頃の、いや胎児の頃にまでさかのぼるほど無垢な俺ちゃんを愛してくれよユリ。愛さなくても良いからセックスだけはさせてくれよ、って強く思っちゃう。思っちゃうんだ。クソが、ユリは俺のもんだ。お前見てぇな蠅ごときが抱いていい生き物じゃねぇんだ。最愛の妹を抱くべきなのはこの俺ちゃんの方なんだ。ユリをアルコール漬けにして透明な容器に入れて部屋に飾りたいと思ってる俺の思考の回路がぶっ壊れそうだよ、実際のとこさぁ。あれー俺ちゃんってば狂人だったの? 理性って代物は何処に飛んで行っちゃったの? 羽ばたいて行っちゃったの? 鳥に擬態した理性が雲を突き抜けて大気圏を突破して宇宙の彼方にまで飛んで行っちゃいそうな勢いだよ。俺は自分が理性的だと思うほどバカでもねぇが、一応冷静な思考と繊細な感受性を有してるって自覚はある。そんな可愛い可愛い俺ちゃんの精神に凶悪な鉤爪で傷を刻みつけたあいつらは万死に値する。値しちゃうんだ。万死なんて知性的な言語を知ってる自分自身に驚いちまいそうになるものの、こたつの中に隠してあったユリの部屋から入手した国語辞典を手にして、そういや俺ちゃんの脳内言語が豊富なのはこれのおかげだなって悟っちゃう。そのずっしりとした重みの辞書のページをめくるとあらゆる言葉にマーカーで印が付けてある。俺は暇なときは何時もユリを思ってこの辞書を引いてるわけだけど、マーカーを塗りたくったのは俺じゃなくて元の持ち主の方だ。つまり妹の語彙力に匹敵するほど俺はこの辞書の内容を暗記しちゃうほど何度も何度も何度も何度も読みに読みまくってる。恐らくこの辞書が本棚から消えた事実に気づいて連鎖的に隠しカメラの存在を知っちゃったんだろう。何て奴だ、我が妹ながら恐ろしい頭脳の持ち主だね、名探偵並みじゃないか。ってことは俺ちゃんがユリの部屋に頻繁に出入りしてるってのも決定的にバレてるってわけだよ、ってこれ周知の事実ね。俺は今の自分の気持ちにぴったりフィットする言葉を探すために辞書のページの上で踊ってる言葉の中からうってつけのものを探す。そう、それは混沌だ。頭ん中がめちゃくちゃに引っ掻き回されてるみてぇな状態だよ、マジでさ。ユリとパパは今まさに俺ちゃんがセックスに興じてる二人を見てるって知っててそれをネタにして内心で嘲笑ってるんだろうか。そうに違いねぇ。パパからママを寝取ったと優越感に浸ってたら、実際には俺からユリを寝取ってたってわけか、そうかそうか、ふーん、あっそ、あんたがそういうつもりならこっちにも考えがあるぜ。って心の中で虚勢を張ってみてもユリを奪い返す計画を練る余裕はねぇ。もっと冷静になってから考えれば良いアイディアが浮かぶのかもしれねぇけど、現状の俺じゃ無理だ。無理無理無理無理。とにかく今はセックスが終わるまでモニターを凝視してるしか出来ねぇのかよ。違う、違うぞ、俺にはこの辞書がある、って言ってもなぁ。こんな道具一つじゃ頼りない。そうだ、とりあえずカフェオレを飲みながら愛猫の背中を撫でようと思いマグカップとバロを探す。この部屋にはそんな気の利いたもんないらしい。じゃあ俺ちゃんの荒んだ心を慰めてくれる道具はどこにあるんだ。ゲームをする気分には到底なれねぇし、同じようにアニメを鑑賞する気分でもねぇ。とりあえず俺は部屋を出てユリの部屋の前まで行った。扉に耳を接着させて内部の音を聴覚で拾おうとする。「ああっ! パパ、最高ー」そんな言葉が扉越しに響いてきた。「しかしアキラも隠しカメラを使ってお前の部屋を覗くなんて悪趣味だな」「どうでもいいよ、そんな事ぉ」クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが! 二人して俺をオモチャにして遊んでやがったのか。このドアを合鍵で開けて中に侵入して二人ともぶん殴ってやろうか。いや、それだけじゃこの日本のこの世界のこの宇宙の王である俺様の怒りは霧散しねぇだろう。計画を練らなきゃ、二人を絶望に追い込む計画をこの頭脳を駆使して綿密に練り上げてから実行に移さなきゃ。だけど数学はおろか算数もロクに出来ねぇ俺にはその企みの骨組みすら設計することがなかなか困難だ。時間を掛けなきゃならねぇ。俺ちゃんは颯爽とその場から離れるみてぇな素振りをしつつ忍び足で一階にあるキッチンに向かった。冷蔵庫の上で愛猫が寝てやがるのを眺めながらミルクを取りだしてお湯を沸かしてカフェオレを作る。猫なのにコーヒーの香ばしい匂いに誘われたのかバロは伸びをすると華麗に冷蔵庫の上から床に着地して俺の足元に寄ってくる。湯が沸くまで待つ間に愛猫と戯れる俺ちゃん、動物や植物をねでる愛情に満ち溢れた心の持ち主の俺ちゃん、優しくて繊細でイカシててロマンチストな俺ちゃん。そんな俺ちゃんはバロの身体を撫でた後に、窓辺に置いてある観葉植物の葉に触れて植物を愛撫する。この草の名前はウズって付けた。これでバロとウズが揃ってユリの愛読してる小説家の名前になる。なっちゃうんだ。でもあの妹がこの俺を裏切るとは予想だにしてなかった。しかもあの下らねぇ男であるパパと寝るなんて吐き気がしてくるよ、マジでさ。コーヒーを作った後に、ミルクを注ぎこむと大好きなカフェオレの出来上がりだ。もちろん砂糖も忘れてないのよねん、って注釈付き。あの男をただ殺すだけじゃつまらねぇから拷問でもしてやろうかと思ったけどそれは俺も怖い。逮捕されて死刑になるなんてまったく怖くねぇけど、生き物の命を奪うってのが優しい俺ちゃんには禁忌に近い行為なのよねん。自分の死に対しては鈍感だけど、他人の死に対しては敏感なんだ。なんて慈愛に満ちた好人物んなんだろう俺ちゃんって男は、こんな好人物に惚れねぇ女なんてユリぐらいだよ。あのメスガキの頭蓋を切開して脳を取りだし、その蠢く思考を観察してみてぇ。これは純粋な知的好奇心に類するものなのかもしれねぇな。賢い僕ちゃんは勉強なんかしたら学者になれてたのかもねん、語尾に音符マーク付き。カフェオレが美味い美味い美味い美味い美味すぎる。俺の頭脳が糖分とカフェインによって活性化してくのが実感できちゃう。さぁこの活火山みてぇに活発に動く脳でどんな計画を練ろうか。二人を絶望の底に突き落とす企みをどうやって水飴みてぇに練り上げようか。あれー俺ちゃんの計画って飴細工だったのー? じゃあ実行に移しても脆くも崩れ去ってしまう砂の山みてぇなもんなのかな、どうなのかな、そうなのかな、ちがうよな。違う違う違う違う違う。俺の計画は鉄骨で出来たマンションみてぇにそびえ立つ強固なもんなんだ。それは例え大地震が来ても絶対に倒壊しね強固な土台の上に建てられた計画のハズじゃん。さぁその設計図を今から作らなきゃならねぇ。脳内にある架空の紙と鉛筆で、つまり想像力を駆使するんだ俺ちゃん。んでもってリビングのドアが開いて、そこに裸体のユリが現れた。腰まで届くほどの長い黒髪に神秘的な神々しいとすら言える肢体を晒してそこに突っ立ってる。ユリの瞳は重力だ、何て詩的な表現がぴったりなほど、彼女の視線は見る者の存在をまるごと飲みこんでしまうかのような強烈な意志の強さが宿ってる。「お前、邪魔」俺に向けて放ったその言葉に俺は瞬時に怒りの絶頂に達した。怒りっていう登山を超高速で、わずか数秒で登っちゃった気分だ。「お前って言うんじゃねぇ。クソガキが」憎しみのセリフを吐きだしながら震える手でマグカップを彼女に投げつけようとして、寸でのところで止める。あの世界遺産にも匹敵する希少価値の高い美しい肌を傷つけちゃいけねぇ、って理性が働いたからだ。そんな俺を無視して、ユリは冷蔵庫を開けるとペットボトルの炭酸飲料に口を付ける。なんて官能的なふっくらとした唇なんだ、って愛憎の念が胸の内側で入り混じってた俺ちゃんは手のひらを返したかのように彼女の唇に見入ってた。俺ちゃんの視線に気づいた当の本人は、薄笑いを浮かべて虫けらを見るような視線で見てくる。「お前ら全部知ってたんだろ?」無意識に俺の口から出た言葉がそれだった。俺がユリの部屋に頻繁に出入りしてること、彼女の私物を物色してること、隠しカメラを設置したこと。「何のこと?」ってすっとぼけやがったからビンタをお見舞いしたくなっちゃった。こいつ俺ちゃんの行動習性をすべて読んで、わざと挑発するみてぇに俺ちゃんの前に現れたに違いねぇ。しかも全裸っていうおまけ付きで、今セックスをしてきたって見せつけるために、俺の性的興奮を誘発させてそれを解消させないって生殺しをするためにね。「あんな男の何処が良いんだ?」「だからぁ何のこと、って聞いてんの」まだ白を切りつづけるつもりらしい、そんな腹積もりらしい、そんな魂胆らしい、ってどんな魂胆だよまったく。このメスガキが何を考えてるのかまったく読めねぇでいる哀れな俺ちゃん。サイコパスの気がある俺ちゃんは人の心を推し量るのが苦手だ、って自覚が多少なくもないのよねん。でもでもでもでもでもでもでもでも俺ちゃんは生粋の殺人鬼なんかじゃねぇ。まっとうに働いてる小市民の一人、ってほど凡人でもねぇが正常な思考を繊細な心を持ってる動植物を愛する好人物だって自覚してる。バロはそんな俺たちの姿を眼球がレンズみてぇにじっと凝視してる。こいつが移動型の監視カメラだったのか、って錯覚しちまいそうになるがバロは俺の愛猫だ。可愛らしくて愛嬌があってこの俺ちゃんに懐きまくってる愛すべきバロ。もしかして俺ってユリよりバロの方が好きなのかもしれねぇな。それぐらいこの猫ちゃんには愛情を注いでるって自負がある。バロは俺の足元に寄ってくとその美しい毛並みをこすり付けてきて俺ちゃんを慰めてくれる仕草をしてくる。なんて賢くて優しくて主人の心の機微に敏感なペットなんだ、って感動してる場合じゃなくてユリと対峙してる俺は彼女にぶつけるべき言葉を懸命に探してた。そう、脳内っていう膨大な宇宙でね。脳内惑星がビリヤードみてぇにぶつかり合って軽快な音を立てながら散っていき無数の穴に入る場面を想像しちゃってる俺の目の前には実の妹の裸体! この素晴らしい絶景を網膜に焼きつけるみてぇに凝視しても良いんだけど、何だかあまり無遠慮に見てはいけない気がした僕ちゃんて小心者なの? いやいや俺ちゃんってば度胸の塊で、愛嬌があって、なおかつハンサムなイカシた男のハズだ、ってそんな自己独自性が瓦解しそうなほどユリを目の前にしてる自分は貧弱この上ない気がしちゃう。確かに、確かに俺ちゃんともあろう男がこのメスガキに恐怖心を抱いちゃってるって事実は認めざるおえねぇ。自分が抱いた感情を認めるってのは人間にとって大事なことの一つだよん、ってここにはいない誰かに向けて頭ん中でメッセージを送る。俺も全裸になって今ここでこいつを強姦するべきか、そのくらいなら簡単に出来るけど、ユリはされるがままで無表情で俺のミルクをぶっ放すまで待ってるだけだろう。そんな映像が容易に思い浮かぶ。俺の逞しい背中越しにユリが無表情で冷めた視線を俯瞰して見てる亡霊じみた俺ちゃんを眺めてる映像が可視できちゃうんだ。ユリはもうキッチンに用はなくなったのか、この場を去って行った。取り残された哀れな俺ちゃんはもう憎しみの念なんて忘却してた。ただただユリが、あんな小娘が恐ろしくて足が震えそうだったのよねん。これじゃあいつの存在が俺を丸ごと飲みこんじまう。それだけは阻止しなきゃならねぇ。そうしなけりゃ俺の独自性が木っ端みじんに破壊されちまう。そのためにはまずあの男、パパを俺の手のひらの上で操らなきゃならねぇわけだけど名案が思い付かねぇ。いや、思いついた。簡単に思いついちゃった。俺はバロを抱きかかえて頭を撫でながらほくそ笑む。計画の骨組みが一瞬で完成した。後は木製の板を張り付けてマンションっていう強固な計画を完成させるだけだ。そのためには多少の時間は必要だけど、実行に移す日はそう遠くないハズだ。俺の手の中からバロが床に飛び降りた。飛び降りちゃったんだ。カフェオレを飲み干すとマグカップを放置し、その場を後にする。あのマグカップはママに洗わせるって冷徹さを遺憾なく発揮しちゃう僕ちゃん。素晴らしい計画を思いついた僕ちゃんを全人類は絶賛してくれることだろう。まぁこの企みは誰にも教えないんだけどねん。教えたらそこで試合終了ですよ、ってな感じかねぇ。いやー楽しみだ楽しみだ最高だ最高だ快感だ快感だ。この計画が完了した時には凄まじいほどの爽快感が得られるだろう、って確信がありまくり。んでユリの絶望した表情を頭ん中に思い浮かべてご機嫌な俺ちゃんは自室に戻った。ここだ、俺だけのこの城で計画を綿密に練ろうそうだなそうしよう。ゆっくりと時間を掛けて完成した骨組みに概念っていう接着剤で壁を貼りつけてくんだ。でもでも俺ちゃんの注意力はすぐに脳内の計画からスマホへと移っちゃう。ソシャゲをやってガチャを引きまくってお目当ての美少女キャラを当てないとならねぇんだ。指ではソシャゲをやりながら頭では計画について考える。そうだなアレとアレが必要になって来る。課金するとママに怒られるんだけど抱いてやればそんな些末な事はすぐに解消されるからどうでも良いんだけど、なかなかお目当てのキャラが出ねぇ。俺が狙ってる美少女はユリ似た長髪で黒髪のスレンダーな釣り目のキャラなんだけど、これがレア中のレアでさ、当たる確率がかなり低いのよねん。このクソゲーのために一体いくら課金したと思ってやがるんだ畜生め。ガチャで出てくんのはどうでも良いキャラばかり、今日もあの子を当てるのは諦めなきゃならねぇ。俺はスマホを放り投げるとパソコンを点けて有料の動画サイトに行って動画を漁る。もちろんエロ動画じゃなくて純粋無垢な美少女キャラが登場するアニメを物色するんだ。いかんいかん計画を練るのを忘れるとこだった。けどけどこんな計画なんてアニメを鑑賞しながらでも簡単に組み上げられる、ハズだって信じたい気持ちがなくもない。ユリの精神を蹂躙するため、パパから妹を奪還するため、あの二人を絶望の底に追いやるための計画を完成させなきゃならねぇ。俺はアニメ鑑賞を中断してクローゼットの前まで行くと扉を左右に開いて中身を見る。もちろんお目当ての品はない。ユリの部屋からくすねてきても良いんだけど計画があのメスガキに知られることを恐れてそれは出来ねぇ。この計画は完全に遂行しなくちゃいけねぇのさ、隊員俺ちゃん、って上官の俺ちゃんが厳かな態度で命令する。つまり隊員ってのは身体で上官ってのは脳だ。そんな脳内お遊戯をくり広げてる俺は計画のための道具を手に入れる算段をしちゃってる。しちゃってるんだ。そういやさっきまで俺がやってたソシャゲも軍隊ものだ。まぁゲームバランスが悪くてクソゲーになってるんだけどストーリーは面白い、ってかキャラは超可愛い。ユリより可愛い美少女たちが照れた表情を俺に見せるのが堪らなくてあのゲームをやってるようなもんだ。あのゲームの中に意識を没入させて、美少女との会話を堪能した後は心地いい疲労感が押しよせてくる。声優も俺の好きな奴らを取り揃えています、って感じで顔の整った女声優が多いけど、声優自体に大した興味はねぇ。顔がブスでも声が可愛けりゃどうでも良いのさ。それにどんな声優もユリほどの神秘性を秘めた雰囲気を纏ってるとは到底思えねぇ。もちろん声優なんて実際に会えるわけじゃねぇから分かんねぇけど。今まで出会った女の中にユリほどの美少女はいなかったから、まぁ声優の中には俺の性的興奮を燃え上がらせる着火剤になるようなそそる女はいねぇだろう。クローゼットの中に箱があって蓋を開けるとナイフが出て来た。これはペーパーナイフっていうオモチャじゃなくて本物のナイフだ。ソシャゲにはまってる俺ちゃんは軍隊が使う様のナイフを一個買ってみた。まぁ鑑賞したらすぐに飽きて箱んなかに封印したまま放置しちゃってるんだけどさ。アーミーナイフっていうらしいんだけど、大きな刃の他に小さな刃もあってそれらを自由に持ち手の中に出し入れすることが出来る。こんなもん持っても何の役にも立たねぇけど形状はイカシてる。それを手に取って刀身を出し銀色に輝く刃にじっと見入ると何だかソシャゲで鎮静化された心が煮えたぎってくるみてぇな感覚になっちゃう。この先これを使うことはあるのかないのか分からないのよねん。って使うわけねぇか、これはお気に入りの美少女キャラが持ってるナイフだから買っただけで、鑑賞用に過ぎねぇ。まぁ軍隊自体にハマってたらモデルガンも手に入れてるだろうけどさ、モデルガンは高いから買うのを止めたしさ、あんなオモチャどうでも良いっていうかさ、って感じなのよねん。俺はナイフを仕舞うと、Amazonで例の物を注文しようとした。なかなかに高額だけど、これはママに払ってもらう訳にはいかねぇ。

© 2026 三沼薫 ( 2026年8月3日公開

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