Ⅰ
くびは 籠から落ちた
落ちて なほ
わたくしの くびが
卯月の風に
晒されて——
晴れ ときどき ほろほろ
くびすぢから零れるのは
言葉のカケラか
それとも
こと の葉のおはり
くびを刎ねた者の名も
くびを刎ねさせた者の名も
立札には書かれてゐない
ただ
「罪人」とのみ
——
わたくしの名は
籠の底で
湿りつづける
Ⅱ
あなたが
やつてきた
うすむらさきの 翅で
わたしの瞼にとまり
わたしの頬にとまり
裂けた口の
あはい暗に
口吻を 差しいれ
何を 吸つたのか
あゝ あなたは
わたしの 最後の
くちごたへを
飲みほしたのだらう
刑罰は 風になり
見せしめは 花になり
あなただけが
判決文を
朗まなかつた——
ただ 一の証人として
あなたは
わたしの項に
やはらかな点として
留まつた
Ⅲ
誰のための見世物か
誰のための くびか
刎ねた手は とうに土に還り
刎ねさせた声も 土に還り
ただ
代々の蝶だけが
代々の朽ちる頭に
舞ひおりて
舞ひあがる
罪も
無罪も
わからぬまま
翅のうらがはに
うすく
うすく
焼きついてゆく
ひとの顔
ひとの顔
ひとの顔——
風が 籠を倒し
籠から
無数の 黄が
立ちのぼる
晒し翅——
判決を 朗まぬまゝ
わたくしたちが
埋めたかつた頬を
ひとひら
ひとひら
あけぼのの 裏がはへ
晒しなほす
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