僕の恋人はブラウン管の中にいる女の人たちだった
今では彼女たちをデータ化して持ち歩けたりするからいつでもどこでもパソコンさえあれば僕のお気に入りの彼女たちと出逢える環境が作れるようになった
そう僕はそれで満足していたはずだ、なのに…なのに僕は…生身の女性に興味を持ってしまった
「 … 」
新しく入った契約社員の女性は愛想が良くて、僕によく話しかけてくる
「イシカワさん、これどこに片付けたらいいですか?」
「あぁそれはね…」
他の女性社員は僕に話しかけてこないのに…何でなんだろう?
「イシカワさんおはようございます」
「おはよう」
彼女は毎朝、コーヒーを淹れてくれている
コーヒーを淹れるのを嫌がる女性社員がいる中で、彼女は少しも嫌がらず1人1人にあいさつしながらコーヒーを配っていく
最近それが僕のちょっとした朝の楽しみになっている
「 …ありがとう」
彼女の手から僕の手へコーヒーが受け渡されようとしたそのとき、僕と彼女の手が触れ合った
「あっ、すみません!」
「いえ…」
彼女の手に触れたとき僕は…
この人も彼女たちみたいに大きな声を出して気持ち良さそうな恍惚の表情を浮かべたりするのかなって思ってしまった
そしたら僕はいてもたってもいられなくなってしまって…生身の女性にもっともっと触れたいという欲望がどんどん溢れ出してきてしまって…
気づいたら風俗店の前まで来ていた
「 … 」
抑えきれない欲望が僕の背中を押した
・
「痛いなぁ」
「どうしたんですか?」
「さっきの客、AVの見過ぎ」
「あ、けっこう激しくヤラれちゃったんですか?」
「そう、超痛いんだよね~アイツら何にもわかってないから本当に腹立つ!」
「…濡れてないのに指ガシガシ挿れてきて動かすのとか本当嫌ですよね」
「そう!それでさー中々潮吹かないね?とか言うんだよね!最悪!」
AVをたくさん観ているお客様は大抵、AVと同じことをしたがる
それが私たちにとって苦痛で嫌なことだって、解ってくれるお客様は少ない
AVであんな気持ち良さそうにしてるんだから、きっと気持ちいいはずだと思ってしまっているところがかなりやっかいで、私たちはいつも困ってしまう
痛いから痛いって言ってるのに『そんなこと言って本当は気持ちいいんでしょ?』とか言われちゃうからどうにもならない
私たちはただ時間が過ぎていくのを待つだけになる
「私、軟膏持ってますよ、塗った方がいいと思います」
「あ!ありがとう助かる~」
「お仕事入りましたよ」
「あ、はい」
「行ってらっしゃ~い、軟膏ありがと」
「また欲しくなったら言って下さいね」
「はぁ~ぃ」
待ち合わせ場所に立っていたのはちょっと小太りの眼鏡をかけたおじさんだった
「はじめまして」
「あっ…はじめましてよろしくお願いします」
「…すごい汗ですね」
「あっ…えっと緊張しちゃって」
「じゃぁ行きましょうか?」
私がおじさんの手を握ったとき、おじさんの手は汗でびっしょりだった
・
緊張していると言っていたおじさんは部屋に入ると豹変した
「気持ちいいよね?ねぇ?ココがいいんでしょ?」
「 … 」
私はさっきのこともあって、ちょっと強い口調で
「痛い!おじさんAVの見過ぎじゃない?」
と言ってしまった
「ごめんなさい…僕、生身の女性に触れたことないから…どうやって触っていいか解らなくて…AVと同じようにすれば…」
「 ? 」
「女の人が喜ぶと思って…」
私はおじさんのその言葉に濡れた
その後は私が優しくおじさんをリードしてあげて…
「んっ!」
私は絶頂を迎えた
end
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