メニュー

暁闇雑歌

飽田 彬

wandering dreams

タグ: #短歌

1,863文字

幾たびも

 

幾たびも夢に目見えし回廊のとしり哭くを辿るも愉し

 

回廊に沿うて連なる茅屋ぼうおくの涯てなき迷宮べるひとあり 

 

ゆえ知らぬえにしあるらんかのひとよおぼろ夢路にほのめき匂う

 

おりおりの夢に訪うおもかげの沁みて春のありありて残更あり

 

吾が夢のふち跨ぎ超えがそれと往来為すも僥倖なりや

 

ヒュプノスに無体な役務強いられし珍な夢より醒めての疲れ

 

 足搔いてもどうせ囚わる醒めぎわとっていながら逃げ惑う暁闇あさ

 

 惨き夢逃れて安堵のうつつとておっつかっつと悟りし払暁あけ

 

やすらかな永遠とわの眠りというならば夢みてるのよ永遠に醒めやらず

 

くれぐれも夢寐むびゆらりゆら枕上ちんじょうの夢語りたしその夢でなし

 

 

 

夜のほどろ

 

他愛なき夜に沁み入るカノンかな仔猫の寝息遠のく汽笛

 

あの橋よ渡るよそうよ吾が町よ市電とことことことことこと

 

炭鉱町やまざとはきみが故郷降り立てば吾が手とりにし幼き日顕つ

 

きみともに追いしかの日のしき蝶舞いみだ暁闇あさ乱るまなこ

 

在り在りて震災語るそのひとはとどろ情動たぎりちたり

 

春ひなた貫くごとくバッハ鳴る青葉のおののき天上のとき

 

いちごパック食器洗剤で濯ぎ喰う思いだしたよそんなひといた

 

この街にカモメ住まうも幾とせぞクラクションに潮騒交じる

 

よろこびやかなしみなんど無かりけり唯そこにあり夏ちぎれ雲

 

うきよにはどってんこくほど幸運もあっていいべさ待つわその汐

 

藍に染む石狩の野の夕まぐれ褪せし列車の喘ぎ過ぎ行く

 

サブちゃんの熱唱ラジオにハモりたり菩提のきみよ彼岸渋滞

 

ラジオよりカタカナ字名跳ね出づる悠かな時代翔るがごとく

 

だしぬけに牧水吟ずる現国の教師顧む秋寒の酔い

 

夜のほどろ鼻さき寒し累代の猫の名かぞえ吾がとがつらね

 

イチイとは俺のことかとオンコ問い俺らのことかとクネニラルマニ

 

散葉敷くチャシ跡丘に言問えどにわか起つ風なぶり去りたり

 

カムイチェプ煌めきあがるサッポロのインカルシぺに羆色射す

 

お登勢なる激浪砕くヒロインに頁繰る手の満ち干き委ね

 

結末を逸るあまりのけんけんぱ彩なすあわいぴょんと跳び越え

 

校庭を翔るエゾリスのなにごとか仰せ給うぞ投票当日

 

投票を果たし繁盛ラーメン店朽葉躙りつ並び立ちおり

 

窓越しのものまねカラス忌ま忌ましケケケと応えまた眠る猫

 

げにも糸たぐり寄せたりあのシーンその俳優たちミラノの奇蹟

 

モノクロの女優いろどる街かどよ冬の陽だまりネオレアリズモ

 

イングリッドバーグマンとさイングマールベルイマンとさ同姓だとさ

 

 

風声

 

歯科受診終えて寄り道ドーナッツ三つ迷いに迷って師走

 

明日からは畳目ひとつまたひとつ薄陽あわいに亡母の声冬至

 

いとやすく捌かれひさがれ鶏の御子きよしこのよるあえされたもう

 

雪あかり風声絶え果つ冴ゆる道これより還世ここより歩みぬ

 

賢しらに鴉踏み初む白艶の踪跡眩し凛烈の朝

 

雪叱り寒さ呵うを朝夕の挨拶とせし慣い慕わし

 

鈴なりのまんまる雀さんざめく梢の涯の光の春よ

 

 

水なき国 鳥なき国

 

黄昏に右むけ右と谺せり燃え墜つ空に萌えアニメ声

 

黒黒と塗られしもとの明明と落果累累桜の基に

 

昏き血の沸き出づ淵に滑り棲む太古の魚よ無明長夜

 

ひとの世はぱっと醒めたき悪夢なり鳥なき空に放つ孫引き

 

悪疾もヘイトも戦争も己が世のうつつなるかな鳥なき空よ

 

暁闇に音なき調べ流るるは水なき国か鳥なき国か

 

 

まにまに

 

払暁あけの靄ためらい匂う白薔薇のなやましき影過りおののく

 

棘秘めて笑み零れたる白薔薇よ綴じゆく夏に熟えし疵よ

 

幾山河越え去り尽きぬ旅ならばいまだあこがれ果てぬあこがれ

 

あこがれはあまくあやしきくるしみにわれをすておきさてどうしろと

 

光射す夢のまにまにふわりふわかのおもかげよ醒めやらずふわ

 

夢かしら思えど現世うつつやはり夢されど現世はあやしぬくもり

 

夢ならばその手をとりて月夜かげ幾億光年相語らうさ

© 2023 飽田 彬 ( 2023年12月30日公開

読み終えたらレビューしてください

みんなの評価

0.0点(0件の評価)

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

  0
  0
  0
  0
  0
ログインするとレビュー感想をつけられるようになります。 ログインする

「暁闇雑歌」をリストに追加

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 あなたのアンソロジーとして共有したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

"暁闇雑歌"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る