陣馬高原という名が目につき、帰路につくのをやめて、
高原に向かう街道を走る。
乗り慣れた自転車は、少し軋んだ音がして、
金具に油を差しながら、騙し騙し行くことにした。
街道は緩やかな道程で、若干ののぼりはあるものの、
舗装されているので、まだ走りやすい。
八王子市に編入する以前、
陣馬街道沿いには南多摩郡恩方村というところがあったという。
たしかに走っていると、町名で恩方というのを見かけ、
かつての恩方村の辺りに差しかかっているのだとわかる。
しばらく道なりに進むと「中村雨紅の墓」という立て札があった。
これは恩方村出身である中村雨紅の墓が、
宮尾神社の入口に置かれているためだった。
中村雨紅は「夕焼小焼」の作詞をした作家で、
暮時に流れるこの童謡の詞は、
この恩方村のことを書いたのだそうだ。
駅のホームでも流れるあの懐かしいメロディは、
陣馬街道を囲む景色と重なり、
自転車の軋む音を包み込みながら
暮れる町の灯となるのだった。
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