ジャスラ

小林TKG

小説

2,710文字

ある種の方々をよく思っていない感があり、慎みに欠けると思われるため落選展とさせていただければと存じます。

西友にレンチンで食べれるジャスミンライスが売っているのを見つけて驚きました。
「マ!?」

以前、ナンの素《フライパンで出来るナンの素》なる商品が西友で売り出された際は、それを目視で、ちょうど見てたので知っていました。しかしナンに関して言えば私は作れたのです。自作が出来たのです。ナン。今も毎日の様にお酒を飲んでいますが、ある時、
「ああ……」

ピザが食べたくなったことがありました。だからピザのデリバリーしようかと思いました。私はかねてよりドミノピザの炭火焼ビーフが好きでした。だからドミノのサイドに行きました。ただ、でも、しかし、ドミノのサイトに行って、炭ビーの注文しようかどうか考えた時、なんというか、思ったのです。高いなあ。炭火焼ビーフ食べたいけど。でもなあ、ちょっとなあ、軽い感じで注文するのは躊躇ってしまうなあ。そう思ったのです。高いと言ってしまうと印象が悪いのであれば高価でいいです。高価なんです。庶民には手が出せない高級品です。いやこれは、しょっちゅうは無理だよ。お誕生日とか、クリスマスとかじゃないと。特別な時じゃないと。だって。だってねえ。炭ビーは食べたいけど。持ち帰り半額とか色々と考えはしましたけど。自分自身の事を叱咤したりもしましたけど。
「私が毎日の様に成城石井とかカルディに行くセレブリティとかだったらよかったのに」

セレブリティじゃなくても。そこまでじゃなくても。二子玉川とか外苑前とか南青山とかに住んでる様な奴だったらよかったのに。でっけーシオカラトンボみたいなグラサンをして狭い道をアルファードで走ったり切り返したり、でっけーシオカラトンボみたいなグラサンをして表通りでダックスフントの散歩させたりしている奴だったらよかったのに。

しかし現実は違うのです。庶民です。下々のあれなのです。私はとりあえず柿ピー等でお酒を飲んで寝て起きてから考えたのです。
「ピザ生地、自作できないだろうか」って。

ネットで調べると、意外と簡単に出来そうでした。とにかく強力粉と薄力粉と砂糖とドライイーストを混ぜて水入れて練って。丸い形にして。ボールにラップして置いておきます。発酵を待ちます。膨らんだらそれを小分けにします。四つ位に分けてそれぞれ丸めてラップで包んで冷蔵します。これで四回ピザが食べれます。生地さえできたら後は上に乗せるチーズとトマトやらバジルソース。それに肉なり魚なりがあれば。あとオーブントースターがあれば。ピザ的なものが作れます。

そしてピザ生地作りの終焉の頃。マイブームの終わりかけの頃。ピザ生地を見てふと、
「ピザ生地だけ焼いたらナンになるかな」

と思ったのです。実際やってみると驚くほどナンみたいになりました。でも正確にはナンとは違うだろう。成分とか。製法とか。ピザ生地だろ。しかしRHYMESTERのザ・グレート・アマチュアリズムを思い出すとそんな事は些末、些細な事に思えました。

私は肉のハナマサに行ってグリーンカレーの素だのレットカレーの素だのイエローカレーの素だのと鶏肉だの手羽先だのを買ってカレーを作りました。そしてピザ生地から作ったナンの様なものを付けて食べていました。

西友には色々な種類のレトルトカレーが売られています。チキンコルマカレー。カシミールチキンカレー。フォン・ブランカレー。サグダールカレー。チャナマサラカレー。マッサマンカレー。グリーンカレー。キーマカレー。スープカレー。バターチキンカレー。麻辣ドライキーマカレー。クリーミーバターチキンカレー。ポモドーロカレー。ビーフカレー。レモンクリームカレー(数量限定)。スパイシー欧風カレー。ペッパーフライカレー。パネーンカレー。スリランカカレー。プーパッポンカレー。プラウンマサラカレー。とかです。カレーみたいだけどカレーなのかわからないポークビンダルーも売ってます。

カレーの棚の上の段に、丸い。円盤みたいな形のものがありました。あれは何だろう。香辛料とかかなと思って掴んで見てみると、
「ジャスミンライスじゃないか!」

ジャスミンライスでした。ジャスミンライスというのはタイのお米の一種です。タイ米とは違います。ジャスミンライスです。あきたこまちとコシヒカリみたいなもんです。ジャスミンライスはタイ等の料理に合います。エスニックな感じの。ガパオライスとかカオパッムーとかあとカレーとか。カレーとか。

西友にジャスミンライスが売ってる。それを発見した衝撃で思わずカゴに入れたのですが、レジ、買う時にちょっと躊躇しました。
「こんなの食べるのは代官山とか表参道とか港区に住んでるでっけーシオカラトンボみたいなグラサンをして金髪の子供を連れたりしている上級国民の類じゃないのだろうか」

私の様な、下々の人間が食べていいんだろうか。そう思いました。その思いのままジャスミンライスとグリーンカレーとポモドーロカレーを購入してサッカー台で袋詰めして。

そのまま、大丈夫かな。煩悶を抱えながら家に帰る時、私はジャスラに遭遇しました。

ジャスラというのはここ最近、巷に出没する怪物の事です。ジャスラは元々、宇宙開発の為の宇宙飛行士として宇宙に行くほど立派な人でした。しかし現地の惑星で事故があって、ジャスラ一人その星に取り残されたのです。食べ物もわずかしかない中、ジャスラ、彼女は故郷、地球の事を想って生きながらえていました。やがて彼女の体はその惑星の環境に適応して粘土質になって。その結果、人間とは思えない姿に変化してしまいました。
「アアアア」

ジャスラに遭遇した際は逃げたり驚いたり戦おうとしたりせず、食べ物をあげれば危害は加えられず、彼女は去って行くそうです。

私は袋の中から、今しがた購入したレンチンしたら食べれる丸い容器のジャスミンライスを出して、それをジャスラにあげました。
「ジャスラが惑星から地球に帰ってきた時、こんな形をした円盤に乗ってきたんだよな」

あげる時にそんな事を思い出しました。
「アアアア」

ジャスラはジャスミンライスを掴むと去っていきました。その姿は幾分、悲しげで。

それはそれとして私はジャスミンライスが無くなった事に、なんか、なんというか、なんとなく、残念に思ったり。よかったなと思ったり。そういう感じになったのでした。

いやいや、でもジャスミンライスが無いとカレーが。せっかく買ったカレーが。仕方がないので、帰り道の途中にあるジェーソンに寄ってパックの白飯と二リットルペットボトルのジャスミン茶を買って。家に帰ってチンした白飯にペットボトルのジャスミン茶をかけたのです。あれみたいに。酢飯作る時みたいに。ちらし寿司用の酢飯作る時みたいに。

2024年10月20日公開

© 2024 小林TKG

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