綾子

小林TKG

小説

2,300文字

イグBFC6出したし、5も出したくて書きました。

ある阿古屋貝が海の中に住んでいる魔女の所に行って、人間になりたいと言いました。魔女はどうして人間になりたいのか阿古屋貝に聞きましたが、阿古屋貝は出水菅をごにょごにょとさせるだけで答えませんでした。
「人間にはしてあげるけど代償はもらうよ」

魔女がそう言うと、帰ってきた時に必ず払いますと阿古屋貝は強い意志を持って答えました。魔女が難しい呪文を唱えると、阿古屋貝は人間の姿になりました。人間になった阿古屋貝が魔女に礼を言って行こうとすると、魔女が、地上に行くんだったら名前を考えていた方がいいよ。と教えてくれました。それを聞いて阿古屋貝は困りました。名前、と言われてもどうしたらいいのかわかりません。
「阿古屋貝だし綾子でいいじゃないか」

それで阿古屋貝は綾子になりました。服も魔女の持ち物から貸してもらいました。
「くれぐれも慎みを持って行動するんだよ」

魔女が言いました。綾子は頷きました。

海面まで上がった綾子は辺りを伺ってから陸地に向かって泳ぎ始めました。阿古屋貝だった時は泳ぎが得意でした。足を使って縦横無尽に海の中を泳いでいましたし捕食者に見つかった時もその足を使って器用に砂の中に潜っていました。人間の体になった綾子は最初こそ、その使い方に戸惑いましたが少し泳いでみるとやがて要領を掴みました。綾子は勘が良いのです。人間の体で泳ぐという行為は手や足、体全体を使うものだというのを彼女は泳いでいるうちに学びました。貝とそう変わらないんだなと思いました。貝だった時と変わらないのであれば、それはもう綾子にとっては得意という事でした。着ていた服も邪魔ではありましたが、貝だった頃の殻、外殻、外皮も泳ぐ時は邪魔と言えば邪魔だったので、すぐに気にならなくなりました。

流れるように。滑るように。水の中を泳いでいくうちに目的の場所が見えてきました。

浜辺にたどり着いた時、綾子はとても驚きました。陸地に上がる。立って歩く。という事が彼女にとってはとても難しい事だったからです。それは明らかに海の中とは違いました。海の中とは全然違いました。綾子はどうにかこうにか苦労して四つん這いになって、這うようにして浜辺に上がりました。泳いでいた時の方がはるかに楽だったなあ。綾子は波打ち際で仰向けになって思いました。仰ぎ見る空は曇天でした。しかし雲が流れて行く様や、カモメ飛んでいる光景は綾子にとって悪くありませんでした。綾子にとってそこは二度目の浜辺でした。一度目は阿古屋貝の時の、幼貝、まだ彼女が小さかった時でした。
「大丈夫ですか」

声が聞こえました。仰向けになって空を眺めていた綾子の視界に男の人が現れました。
「あの、どうしましたか」

綾子はその人の事を見てすぐに体を反転、うつ伏せになって起きて、立ち上がろうとしました。しかし、手も足もうまく扱う事が出来ずに、すぐに体勢を崩してしまいました。
「あの、大丈夫ですか」

その転びそうになった綾子の体、腕を、男の人が両手で掴んで支えてくれていました。
「すいません。危なかったんで」

弁解めいた事を言う男の人に、綾子はもたれかかるようにして自分の体を預けました。

綾子は男の人の家でシャワーを浴びていました。着ていた服や体がびしょぬれで砂だらけだったからです。お湯の出し方などを男の人は丁寧に教えてくれましたが、綾子は水で十分でした。そもそも海にいた綾子なのでお湯とか言われてもよくわかりませんし、危険でした。お湯なんて浴びたら出汁とか出ちゃうんじゃないかな。綾子はそう思いました。

シャワーを浴び終えると綾子は男の人が用意してくれた服に着替えました。男の人は家に一人暮らしで女物の服は持っていませんでした。用意されていたのはトレーナーの上下でした。雨が降ってたり風が強い日の海面の色みたいな灰色の部屋着。毛玉がいっぱい。

まだ手足のおぼつかない綾子は苦労してそれに着換え、男の人の前に座り込みました。
「あの、名前とかは」

綾子の髪は濡れたままでした。その一部が綾子のおでこや、頬に張り付いていました。パッと見た感じは普通の黒色で。しかし光に透かすと赤みがかって見える。海の中で育てられている海苔みたいな黒髪。綺麗な髪で。
「あやこ」

綾子はそれだけは頑張って言いました。人間の声帯の機能も全然うまく使えません。だからそれを言うのだって大変な労力でした。
「何処から、何をしに来たんですか」

男の人は綾子に聞きました。あなたに会いに来たんです。綾子はそう言いたかったのですが、うまく声が出せませんでした。だから代わりに四つん這いで男の人の元に行きそのまま男の人の体に覆いかぶさりました。

綾子は男の人と生殖活動を行いました。

昔、綾子が阿古屋貝のなり立て、まだ小さな。幼貝だった頃、間違って浜辺に打ち上げられてしまった事がありました。それを助けてくれたのがこの男の人でした。男の人もその頃はまだ子供でした。その子が阿古屋貝の幼貝だった綾子を海に返してくれたのです。

綾子は彼のもとへ恩返しに来たのでした。

男の人は成長したとはいえ、綾子にはすぐにわかりました。間違いありませんでした。

勘でしたが、でも綾子は勘が良いのです。

それから次の日の明け方まで、綾子は男の人とまぐわい続けました。そしてまだ夜も明けきらぬ頃、綾子はもともと着ていた服に着替えて。トレーナを何とか畳んで。海に帰りました。魔女の所に戻った綾子は魔女に代償として自らの中で育てた真珠を渡しました。

阿古屋貝は真珠の養殖に利用されている事から、別名、真珠貝とも呼ばれています。

貝に戻ってからも綾子は男の人を想いました。彼のチンポに真珠を入れていました。

2024年10月13日公開

© 2024 小林TKG

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