LEDの青白い光が倉庫のコンクリート床を舐めるように照らす。灰色の床にはカーリングのストーン状のロボットたちが並ぶ。ロボットたちは頭上に毒々しいレモン色の棚を載せ、独裁国家の軍事パレードのように機敏に行進していた。
ロボットたちを愛おしく眺める。この棚出しロボットは会社の新しい仲間。わたしが生み出した、子どもたち。生産性が高くて頼もしく、人間の仕事を、尊厳を、無慈悲に食らいつくす怪物。
「いやあ。音羽さんのロボットは、しっかりヘルメスの仲間になりましたね」
ねっとりした高音の声が隣から聞こえた。視線を移すと、オペレーション技術開発部の朝川部長が唇を横に大きく伸ばしていた。会社のロゴ・スマイリーマークにそっくりだった。
ヘルメス――世界最大のeコマース企業。アメリカ西海岸・オレゴン州で創業し、ECサイト・ヘルメスドットコムを運営。世界三十五カ国の顧客へ約五〇億品目の商品を配送し、全世界で五〇〇〇億ドル、日本法人・ヘルメスジャパンで三兆円の売上を計上する超巨大企業だ。ヘルメスは『地球上すべての顧客の満足に貢献する』というミッションのもと、物流倉庫をサティスファクションセンターと呼び、わたしの開発したロボットは東アジア最大の規模を誇るこの小田原サティスファクションセンターに導入された。
「推薦状を書いてみるか。チームマネージャーになって、さらに貢献してもらいたい」
朝川部長は赤いベストを正した。
「大変恐縮です。会社の生産性向上に貢献できるよう一層努力します」と言って深々と頭を下げた。
これで平社員から管理職になれる。二十八歳での昇進は、同期入社の社員で最速だ。
「そうだ、音羽さん。あれを見てどう思う」
不機嫌そうな部長の声。頭を上げると、部長は工程へ指をさしていた。
ロボットが棚出し工程の端まで前進し、梱包工程へ到着。待ち構えた作業員が棚から雑巾を取り出した。緑のベストを着た作業員は、整った顔に似合わぬ虚ろな表情をさらし、ヘルメスのロゴが入った段ボールへ雑巾を詰めていた。
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