アパートのドアを内側からあけてやると由美がケイタの手をひいてそこに立っていた。せなかに戦慄がはしる。朝日がまぶしい。ついに報われたのだ。そんな高揚がふくれあがりきるよりさきに由美の手がとんでくる。つよい力で肩をおされた。おされた。おされた。世界がおおきくゆれた。由美の顔がぐにゃりとゆがむ。とおくで声がした。男の声でオキャクサンときこえたので重いまぶたをもちあげると目のまえにおじさんの顔があった。帽子をかぶった制服のおじさんがおれの肩に両手をあてている。
「お客さん。終着駅だよ」
口臭がとんでくる。
「はい」とおれはうなずいた。からだがうそみたいに重い。おちるところまでおちてゆきそうだった。
「だいじょうぶかい。もう電車ないよ」
「ここでおりるんでだいじょうぶっす」
そう言っておれは電車をでた。こういうことはまえにもあった。そのときは改札の場所がわからずしばらく駅構内を徘徊した。こんどはすんなり外にでられた。PiTaPaのチャージ残高が二〇円になった。
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