ホワイト博士。

巣居けけ

小説

1,318文字

お前たちは一体、何で小説を書いているんだ?

おれは小説で絵を描いている……。灰色のチューリップハットの男が、公園で水を吐いて歩き回っているぞ……。おれはそんな彼の背中に『敗訴』と赤文字で書かれた紙を貼り付ける仕事で稼いでいる。細長いペルビアンジャイアントオオムカデが眼球の無い眼窩からにょろにょろと這い出てきて、壁に虹色の粘液を放射してメッセージを記入する。「私は蛸派だ……。そして諸君よ、南に離れたあの島に行くといいさ。そして念願の黒い電話の受話器で股間を癒し、睾丸の乾いたかびの香りで一晩をやり過ごせ……」ペルビアンジャイアントオオムカデは仕事を終えた老人の背中のような雰囲気を放出しながら眼窩の中へと帰って消える。だからこそ少年よ、己のマスターベーションを恥じるな。そこに殺意的な意思があろうとなかろうと、君たちがやってきた、擦ってきたものには変則的な価値がある。そして医者たちはチューブに自分の唾液を擦り付け、美形な女の患者の肌に突き刺すだろう……。「おれはダブルバレルのショットガンでいくぜ! なんたって、ウインチェスターだもんな!」
「あいつは自分の銃身を自慢したいだけなんだ」と嘯くマスターはカウンターの横から酒を挿入しようとたくらんでいる小僧にゲンコツを食らわせる。彼は田舎の鼠という二つ名で警察界隈をうろちょろする根性のある男で、以前は酒も売っている煙草屋でバイトをしていた。
「やつはどうしてベストをつけているんだ? いまは秋だろ?」
「あいつは百足の呼吸の方法を研究しているんだ」と、ウヰスキーを追加で注文している男たちは呟く。するとカウンターの後ろから新しいビールの瓶が飛んで行き、酒場を出ていく少年の後頭部に激突して砕けて散った。
「山羊ですよ。真の山羊。いや、哲学者と言ったほうがいいか? あるいはテロリストかも。彼は反社会的勢力でもあり、医学界隈の重鎮でもある。三日前に腐ったバナナという比喩もできる。間欠泉、は言い過ぎだろうかな……。ともかく、彼はこの街には必須の商魂なんだよ」
「なるほどね」

マスターは皮の浮いた酒で一夜を過ごす……。

明らかに沸騰している眼球。撮影中に暴徒と化し、後に処方された鎮静剤がきっかけで違法薬物の中毒に陥ってしまう。「清潔感とは縁のない生活でしてね……」

著名な物理学者のホワイト博士。「さっさと実験を開始しろ」とホワイト博士は万年筆をくるくると回しながら呟く。すると研究室の助手たちは残りの一週間の時間を、部屋の隅のテーブルの下で過ごす。ホワイト博士はそんな彼らに飴玉を与えて蟻の巣を作らせる。
「眼鏡屋のホワイト博士」は街の八割の人間から死ぬことを推奨されている。さらにとびきり高い位置からの落下によって、患者の全身を棘で埋め尽くす。ホワイト博士は常に針や棘の向く先を見つめ、事業の間で匍匐前進をしている……。

ホワイト博士は縦横無尽に駆け巡る。そして人間の電波の在り処を調べて文字に記している。報告書の文末には必ず唾液の痕が張り付いており、常に蠢く文学が彼の及第点を肯定している。ホワイト博士はそんな文章の集合体を相手に面接を行い、珈琲で湿らせて学会へ提出する。その際、人畜無害なホワイト博士は独りきりの食事会で議題を進めることがある。

2022年12月14日公開

© 2022 巣居けけ

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