山羊総括係。

巣居けけ

小説

1,061文字

おれは新しい総括係に書類を提出して夕食を小銭で済ませようとしていたところだ……。

山羊総括係のカリンは波に乗ることで教室の中の山羊たちの角の行く末を視ることができる。そして道筋を理解したガス状の宗教にはカーキ色の軍隊のかさかさに乾いた最も端に存在している塊で遅れた朝食を取る……。屋台に備えらえたビュッフェに火山灰の色を模した蟲たちを置き去りにして幸福を願うふりだけをする。
「おたくは? それとも現金では無理だと?」
「い、いいえ……。ははっ。まさか……」

その日のカリンは調子の良い男のよれよれのシャツの中から五円を取り出して過ごしていた。彼女は何もしていない人間の懐に入り込み、より有力な無気力を提供するかわりに金銭を要求する仕事で稼いでいた。しかし実際は有力な無気力など無く、空想の物を購入した男たちは金を要求してくるカリンから逃げる日々を仕入れらる。カリンは得意の山羊読みで男たちの居場所を突き止め、かかと落としで気絶させたり、公務員の真似をした顔色で調子をうかがいながら金銭を要求し、必ず集金を完了する。

カリンは一直線に進んだ後の街の風の蠢きで次の獲物を選択し、自分の腕が腐らないように胃液からの消毒で二本に増やす。さらに右手に持った珈琲店のテイクアウト・シリーズを飲み干し、公園に向かって投てきをする。
「えいやっ!」公園の隅に置かれた網で構成している円柱のごみ入れにくしゃくしゃのカップを投てきする。不確かな放物線によって飛んでいき、からんと音を立てながらすっかり入って視界から消えていく。カリンは自分の自慢のウルフカットを撫でてから、砂場で山羊の二足歩行を作ってその場を去った。
「あんたは砲丸投げの選手?」
「いいや……」カリンは後ろからの問いかけに唾を吐きながら答える。「私はただの山羊の職員……」溶けていくような甘い吐息の声色と淀んでいる波紋による女の声……。表裏一体の夢のような職員の常套句……。

暴動を防ごう、不正を暴こう。そして山羊の集まる街の中心点で踊りを下し、吹き飛ぶ角たちで結婚式を執行する。彼女はすでに五つの州から死刑を求刑されている……。さらに、不確かな微細のカリン陽炎に対して、「週に何回調査するんだい?」と尋ねるのは禁止されているはずだ……。
「何か不都合でもあるのかい?」と、自分のデスクについたカリンは部下らしい顔ぶれの男に訊ねる。
「いいえ。カリン山羊総括係の仰ることには何の疑問も持っていません」
「ならいい」他人に用を足している姿を見られるくらいなら、さっさと漏らしてしまったほうがいいと考えているカリン曰く、「山羊とは掴み取るものであり、与えられるものではない」らしい。

2022年11月27日公開

© 2022 巣居けけ

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