蠢くポリゴンの街。

巣居けけ

小説

1,262文字

通過していく弾丸の硬い全身と熱を込めた深緑色の人の形……。

オンリーワン・ロードは耳が良い。そして彼のような分厚い爪を持つ人間に爪剥ぎの拷問を受けさせると、必ず「頸椎!」と叫びながら身体を震わせる。彼らは釣り上げられた魚のような蠢きで抵抗した後に、砂漠に三日置き去りにされたラクダのような声を上げて死に至る。
「忘れたのか? おれたちが道路の真ん中で生理を舐めてから前転をしているんだぜ? なあ、母親よ。あるいは母親のような見た目の山羊よ……。おれたちの未来はどうなるんだ? おれたちは集団で幻覚を見ることもあれば、誕生日を連続で祝うこともあるんだぜ? そして山羊の路地裏でバーベキューを執行し、カクテルの色でその日泊まる宿と晩酌のためのアテを選ぶ……。すると公園で遊んでいた少年がこう言ってくるんだ……。『ねえお兄さん? どうしてサーカス団の恰好をしているの?』
『ああ……。おれたちは明後日の残り物でも口にするんだぜ?』
『でもお兄さんはアイスクリームを素手でいくでしょ?』
『ははっ。おれは固体じゃないぜ?』そうだな……。おれたちは街の中で最も栄えているカネが集まる集落のおこぼれで暮らしているし、もちろんサーカス団にも関わりを持っているけれど、しかしな、少年よ、サーカス団は普通おれたちのようなメイドを知らないその日暮らしを目当てでナイフを振るうことはないんだぜ? 哺乳瓶でも殴ってろ……」

そして吹きすさぶ回転の確率の山を貶してから一本道の遊歩道で素手と指を弄んで回避の足取りを掴む……。おれが日報を届けるころには全てが完結しているはずだ……。「そしてトランペットの音で目が覚めるんだろ?」

街を流れていく空気感の中で人々の接触を隔てる壁となる……。黒い風が鉄の形を担ってから教壇に立って指を指揮棒に変換させている。迫る開校に向けて数学機械の鍵盤を叩き、街の変動していく情勢と不確かな熱湯のような人相……。
「次の講義は何時からだ?」
「二時」光が差し込む蟻の巣を見下し、ローファーの底で叩いてから鏡を割る感触に酔う。学芸員の男たちは自分たちが複数形であることを知らないが、講義のさ中で指揮棒によって蠢く変動の数値に文化的な接触を期待して崩れている。「よし。ここからは数式に頼らない方法で立体物を舐めていくぞ。そこの山羊のような物質を取ってくれないか? ああ、構わない。私は白衣の裏に山羊の皮膚を挿入しているんだが、これがまれに、蠢くことがあるんだ。そういう時はどうすれば良いと思う? そこのきみ、答えてみてくれないか?」

そして教授は指揮棒を振るう。ここが街の道中であることを忘れた数学の彼女は、無視をしている女学生の一人を指名して自分の隣に座らせて問いかけた。「どうだい? 答えてみる気持ちはあるかい?」
「いいえ。私はあなたの言うことに一切の疑問がありません」
「そうかい。ははっ、まるで産まれたての山羊だな。きみは」
「いいからさっさと離してくれませんか?」

やってくる歌唱の波に乗る男たちと銀行の音に重なっている数式のための黒板の崩壊の音……。何も答えない不器用な彼女と共に夜の酒を飲み下す教授室の住人たち。

2022年11月27日公開

© 2022 巣居けけ

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