君とこうして、手を握り合うだけで、僕は満足なのかも知れない
ひょっとしたら、君ではない誰かともそんな気持ちになってしまうかも知れない
…手を握り合うという行為は僕にとって、最高の快楽なんだ
「ちょっとこのまま外を一緒に歩かない?」
「え…ホテルに行かないの?」
「いいんだ、それが僕のして欲しい事なんだ」
「じゃあ、このまま…」
白髪でちょっとサイズが大きそうに見える紺
色のスーツを着たこの人は私にそう言った
「VIPのお客様なんだけど、ちょっと変わっててさー」
って店長が言ってた意味が何となく解ったよ
うな気がした
「君の手は指が細長くて…」
「 … 」
「キレイだね」
「ありがとう」
手をぎゅっと握られた
「あの人さープレイしないんだよね」
「あぁ、話すだけで帰っちゃう人みたいなカンジ?」
「いや、っていうかねー、普通外で待ち合わせてさ、すぐホテル行くでしょ?」
「うん」
「あの人はねーホテルには行かないで、外を歩き回るらしいんだよ」
「えーっ!超疲れるじゃん!」
「まぁ散歩するだけでいいんだからラクなお客様でしょ?」
「うーん」
見た目は至って普通のおじさんで、結婚指輪
もしてる
お金持ちそうではないけれど、キチンとして
そうな人だった
おじさん独特の臭いもしないし、ギトギトな
いやらしさもカンジないし、子供とかいるん
だったら、きっといいお父さんなんだろうな
ぁって思わせるような人だった
「 … 」
何だかこんな事だけでお金をもらったりする
のって…悪い気がした
「そんな悪い気がするとか思わない方がいいよ。時間を買ってくれてると思って、その間は恋人のように振舞えばいいんだから」
「そっか」
「そうだよ、あんまり余計な事考えずにお仕事してきなさい」
「はーい…」
そうやって店長は言うけど、私の時間を高い
お金で買ってくれて…いつもはそれ相応のコ
トをしなくちゃいけないんだけど、こんな普
通の恋人同士みたいに手を繋いで、夜の街を
散歩して、一緒に空を見上げて星を探して、
今日1日あったこと、新しいところから契約
がとれて嬉しかったとか、お昼ご飯に何を食
べたとか、電車の中で薄着の女の子が増えだ
して、何となく恥ずかしくなったこととか…
「 … 」
たくさんの言葉が、彼の話し声が羅列されて
いって、私の耳に届く
そして、彼の手が私の手をぎゅっと握る
まるで一緒にいることを確かめているかのよ
うに彼の手が私の手を握る
それはカラダを重ね合うコトよりも、私にと
っては重くて…
手を振りほどいてしまった
「どうしたの?」
「え、何か…ちょっと」
泣きそうだった
泣いてしまおうかとも思った
「…手を握るという行為が僕にとって1番の快楽なんだよ」
「えっ」
「だから君は僕に快楽を提供してるんだ」
「 … 」
「愛じゃないから、安心して」
「そんな…」
「大丈夫だよ、君は仕事をしているんだ」
そう言って彼は私の手をまた、ぎゅっと握っ
た
「君は優しい子なんだねぇ」
「違うと思います」
「そう?君なら、この手を握り合っているという行為だけでイケてしまいそうな気がするよ」
そのまま2人はまた夜の街を歩き続けた
「 … 」
私のスカートの中は濡れていた
だからさっきの彼の発言にちょっとドキッと
してしまったのだ
end
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