巣居けけのノート。

巣居けけ

小説

4,090文字

ドダー・ドダーはヒトの悲しみを連鎖させる。彼は瓦礫に挟まっている人間や山羊のような四足歩行の酔った老人の尻を舐めたり、家に訪問して亡くなった人間のためのお辞儀を二時間ほど続けることで街の人間の悲しみを脳裡で蘇らせる。そして入り組んだ装置の声を聴く。彼の次の仕事はカフェテリアで完結する。専用の電子機器で悲しみを連鎖させるように入力するだけで完了する。

急降下で休講か。そして一人の保育士で土岐色の男は両手の平で顔面を覆い隠す。「これは、いないないばーの予備動作」
「そうかい」

彼の眼前の複数の女児たちが二秒後に現れると予想される『ばー』に備えて腰を低くする。一人はその緊張感の中で脱糞をし、献立の中のカレー・ライスの回避方法を予測する。

悪臭による嫌悪感。保育士男の胸を貫いたそれは、彼の得意な『いないないばー』を不発に終わらせた。

空に浮いている鳥たち。午後からの強襲と田舎帰りの女子高生。「そしてトリケラトプスをいじめ始める」
「そこで質問なんだけど、君って個室トイレに入ったら、トイレットペーパーで鼻をかんじゃうタイプ? それとも、脱糞の映画でカレー・ライスの味のポップコーンを食べることができるタイプ?」河原で絵本を読み比べている女児の、達観し尽くした二つの目……。
「僕は未来よりも時を描くタイプさ」少年は河川敷の坂で立ち上がる。「それよりも、これ、この毛の塊、なんだと思う?」
「ぼわぼわしてるし、陰毛かな」女児は両目をきょろきょろと蠢かしている。彼女は生まれつきの病気のような何かで、双眼のそれぞれを別方向に自由に蠢かして相手を威圧することができた。「いや、もさもさもあるし、尻の毛かもしれない」
「会えない間、なにしてた?」水死体のような顔の彼女は公園の滑り台から大声で尋ねる。
「え、えっと、三点倒立……」二日酔いのような思惑と劣化をたどる商店街の気合で答えた。そして彼は足元のミミズに水を向ける。「君は?」

二人はいつものように顔を合わせる。そして、遠い目をしてつぶやく。「愛しの番犬はアコニチン中毒で死ぬ!」火箸で喉を貫き、二日酔いの恩恵でフナムシを嚥下する……。
「好事家なんだな?」拾い物の手術着でその場の旋回の空気を覆い尽くす。さらに上からやってくる衝撃に備えたメスの持ち手に患者の運命を乗せて笑う。
「水死体のような顔の山羊だ」
「風船にでもなったのか?」

一度目の手順として、彼は彼女を火箸で犯す。さらに続きの夢を無数のカプセル型ホテルで観る……。観測と共に背筋を擦る。三度目の手順にランチの統合を英断として挙げる。

 

さらに無くなった物語とやらを探しもとめるおれの素手に、一匹の山羊が増えていった。彼らは宙に浮くことを市場で自慢するだけではなく、地下で行われているはずの大食い対決にチラシを刺し込んで消えていった。おれは錠剤の中の真実とやらに理解を示している。そして答案用紙の隅で作曲した物語を教祖として読み上げる。
「辛口の互い違いで?」良い顔のカード・マスターが唱えるようにしている。彼の水死体の調査で蟲の煽動を知り尽くす科学。
「おれはいつでもできてますぜ?」
「ならさっさと理科室とやらに行けばいいさ……。本当に理解しているのか、怪しいモンだがな」

おれは深淵のような奈落の存在していない暗闇に身分を溶かしていく……。

さらに女児が死体の処理方法についてを質問している。おれは手早く済ませたかったため、「地下の山羊工房にたのめ。彼らが本当に仕事をしているのならな……」で終わらせた。

万年筆の先端で人間の仮面を力学的に相殺し、向かってくる山羊に突進で教えを掴んで相対性理論を説く……。

千円の道化師が「やったぁあ!」と微笑んでいる。向かって右側の鮮血が入り乱れる砂漠の牙……。さらに追加の注文かい? 「ああ、都合良く身体が頑丈になったり脆くなったりするんだ!」もちろん、おれは構わないぜ。

 

それから山羊の大群は見る影もなく消えていった。アルコールのランプで精液を交わしている雨の力士すらも、灯台の中で電撃を食らうだろう。

おれたちは民衆の理解力を海外へと流出させるのに一役買った。さらに委員会の連中は多くなっていった選択肢の中から緑色の少年を拉致した。

酒が回っている身体で階段を下る。しかし彼は五段目で転び、そこにたまたま存在していた画鋲で右目をやってしまう。
「まったく、どうしてそんな位置に画鋲が?」警察のふりをしている主治医によって得られた解剖の経験。ギラギラに輝く無影灯。「あんた、サボりかい?」
「失礼。すこし電話が……」格別な真骨頂と電話のタイトル。空気感の中でおれは手術室を後にする……。

 

そこでおれは生粋の『t』を入力する。そして風上の中の診察を満たす。コンピュータ室のような香りの次に音がやってくる。酒の音でグラスが揺れる……。

 

「おれは歌を唄っているヤツが一番嫌いだ! どいつもこいつも歌唱に取り憑かれやがって!」
「まあ落ち着いてください。あんたには力士としての才能がある」

おれはウイスキーを割る……。理解力を求め過ぎた小学生のような滑り台に唾液を垂らして、好意の中の女子高生に滑ってもらうための手順を演出する。

 

そろそろ機械の油が音楽を始める時間だ……。職員のおれは波の感情と共に壁に腰を着けて、肩からさげている拳銃収納ボックスからリボルバーを取り出して舐める。第三の手順としてゴリラの声を真似し、隣でおれのじっとりとしたスーツを見つめる女児に発砲する。

激烈な音が鳴り、炸裂していく女児の頭蓋……。脳と血肉が混ざった飛沫におれのスーツが快感を得ている。都合の良いシリンダーの回転が素手から全身に伝わって射精をする。

女児がバタンと後方に倒れる。元々つたなかった職務の中でのささやかな幸福で女児の秘密の部位を舐める。汗のような味に陰茎が大きくなっていく。

女児の膣に自分の陰茎を入れる。腰と腰をぴったりと合わせながら、頭部の無い女児の身体を眺めてピストンを始める。性行為の耐性が無いおれはすぐに女児の中に自分自身を炸裂させる。

陰茎を女児から抜き、彼女のワンピースで綺麗に洗う……。おれの素手の中で蠢く女児の亡骸の感触で、おれは第四の動作のための階段を見出す……。

 

指示したカーソルに導かれる……。微細な寒さに一年前のソワソワを思い出す……。営業を開始した会議室に角ばった料亭を流す……。「さあ急いで! みんなの波が押し寄せてくる!」女医が両手を滑らかに煽動させて嘯いている……。

階段を下る音で楽曲を産み出す。やさしさだけで取り繕う男子に雑巾の濡らし方を伝授する。どこも向いてない顔とどこにでも視線を巡らせている眼球の動き。胎児よりも分厚い過保護に加えられた独りの生徒……。発見の七文字でステージを焼く……。自動販売機の整列で濁声を出す……。「モグラの血液型のパーセンテージによる落雷と水飛沫のお祭り騒ぎ。日常の中の亀裂の風船による上昇と重苦しい会話の列。太陽と銀河系の停電や鍵の導入方法。大それたコーヒー豆とカップケーキや魚の臭み。動作確認を見越したベストの枕とパジャマ姿。

生徒のふりをした機械の友人と浮遊感の先駆け。情緒の中に対人恐怖症とスナック菓子。堂々巡りの二階と三階。ナッツミルクの愛好家と手術の上げ下げや蚊取り線香工作方法……。

すると外国の峠が叫びを上げた。『おれには理解の坂を三十のコインでやつれさせることができるんだ』
『レーション?』ブックマークのリスト管理者がカウンターを超えて小銭を修復する。
『おれたちは名前を呼ぶこともできないんだ……』どの連絡先も通用しない顔や彼岸花……。
『問題は接し方のコンビニエンスストアだよ。どこにでも向いている首の捻じれ具合が剃刀と同じになる日が来る……』

そして今までの会話を再現している医者は席を立ち、コホンとやったのちに眼鏡を食らう……」二度目のボタンをペットボトルに変換……。
「僕は先に向かうからね。申し込みのための処分で診察室をかまえるんだ」

 

そこでおれは嘘をついた。それは未来の山羊や舌の長いそうめんのようなどろどろの比喩でもあったが、ライフハッカーを後ろにつけたおれはどこにでも、どんな山でも上りきることができた。だから信頼のおける人間に良い味の出し方を教わったり、幼児の性癖を忘れないように抜け出した生徒に刃を判断する。

ドダー・ドダーはヒトの悲しみを連鎖させる。彼は瓦礫に挟まっている人間や山羊のような四足歩行の酔った老人の尻を舐めたり、家に訪問して亡くなった人間のためのお辞儀を二時間ほど続けることで街の人間の悲しみを脳裡で蘇らせる。そして入り組んだ装置の声を聴く。彼の次の仕事はカフェテリアで完結する。専用の電子機器で悲しみを連鎖させるように入力するだけで完了する。

上品さを売り物として飛ばす……。仕事を力学で考えると同時に、瓦礫の粉砕に努める……。
「きみはメタを知っているか?」
「メタ?」そしておれは自分の素手の中に隠した手帳を視る。「知らないな。人名か?」

それからおれはこの面倒な警備の網目を抜けた男どもと賭け事をした。おれはスペードの六と共に自分の唾液の味のレポートを提出した。すると男どもの一人が肉の旨味を提出し、氷のようなグラスで一杯やった。おれは自分のうちに鳴り響く煩い音をかき消すように一歩を踏み出した。

 

四度目の手順に何を選択するべきなのか。声が腹を下って性器を覆す。お気に入りのワンピースで五度目をすでに見据える。上がって砕けていく音に身を任せながら腹の隅で翌日のことを考える。さらに他人の話を聞いていない会社員を放牧許可証でなだめる。
「ささ、お入り……。当事者としては温かい方がいいだろう?」
「おれは理解を知らないぞ?」

 

花壇に水を垂らした経験があるのか? おれは自分に提示された質問の中で、唯一覚えているそれを主治医に受け渡した。おれは自分の炊飯器がすでに空になっていることを理解していた。田んぼ道で放尿をし、その熱で湯たんぽを作る……。

おれは向きなおしのふりをして主治医に機嫌が悪いことを伝えた。すると銀色の髪を持つ彼は引き出しを開け、錠剤のレプリカをおれに差し出した。
「なんだい、それは?」
「これできみの気持ちも晴れるだろう……」

おれは結局その錠剤を二週間分貰ってから帰った。一時間をかけてようやくたどり着いた自宅は、病院に行く前よりも狭く感じられた。

2022年10月7日公開

© 2022 巣居けけ

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