この世で最愛で最低な君へ

この世で最愛で最低な君へ(第21話)

実琴

小説

1,624文字

人を愛する事が出来ない事に惰性していた私が初めて人を愛した人は優しくて最低な人でした。堕ちていく…愛に憎悪に

私は事務所で事務作業をしていた。

すると

「さくーホッチキスの針欲しいんだけど」

と使えない同僚に言われた。

「ホッチキスの針?ちょっと待って」

備品管理も私がしている。この男は本当に仕事しない。そして馴れ馴れしい。

ホッチキスの針を探して、掌に乗せて

「はいよ」

と差し出した。

「サンキュー」

と奴は私の手からホッチキスの針を取った。すると、ポケットの中に入れている携帯電話のバイブが鳴った。

なんだろうと携帯電話を見てみると

『そいつ今、さくらの手触ったでしょ?しかも馴れ馴れしく名前呼んでる』

と彼からのメールだった。

そう、彼も事務所で事務作業をしていたのだ。狭い事務所なので全部見える。

今の見てたの?ちょっと怖いと思ってしまった。

『手渡しだから触れたかもしれないけど、触ってはいないよ。馴れ馴れしいの前からだし、それに奴は彼女居るから大丈夫だよ』

と私は返信した。

『そうなんだ』

とこの時はこれで終わった。

 

別の日、私は一段落したので休憩所に入ると自販機に仲良くしてる男性社員がいた。

たまにジュースとか奢ってもらっていたのでいつもの調子で

「私もなんか飲むー」

と男性社員に言うと

「はいはい」

とジュースを買ってくれた。

「ご馳走様」

とジュースを受け取ったら、自販機の側のテーブルで事務作業してる彼がいた。

あ、やばいかもと私は思った。

するとやはりポケットの中の携帯電話のバイブが鳴った。

恐る恐る見てみると

『俺の前で他の男にジュース奢られるってどういう事?ジュース欲しいなら俺に言いなよ』

とメールが来ていた。これは完全に私が悪い。でもまさか居るとは思わなかった。

彼が来る前からそんな事をしていたのでいつもの調子でやってしまった。

『ごめん、いつもの調子でつい…』

『今後は俺に言いなよ』

『はい、分かりました』

と私は送った。

 

給料明細が配られた時、喫煙所で同期で弟みたいに思ってる年下の男の子で隣に座り、

「いくらもらったの?見せて見せて」

「そっちも見せてよー」

「いいよーじゃあせーのね」

と見せあっていた。

「私の方が多い!」

「くそー」

とやり取りしていると、また携帯電話のバイブが鳴った。

ん?と思って前を見たら彼が居た…今日は喫煙所人が多くて気づかなかった…彼も他の男性社員と喋ってるとこ見たことないので、人が多い時はいつも黙っていた。

『俺の前でなんでそいつとイチャイチャしてんの?』

来た…

『これはイチャイチャじゃなくてふざけてるだけよ。それに彼は同期だし彼にもちゃんと彼女居るから大丈夫。相当なバカップルなんだから』

『俺の前で他の男と仲良くしないで』

『それは仕事上難しいでしょ。1人で仕事してる訳じゃないんだし…管理者として男性社員のやる気を出すのも仕事なの』

『イチャイチャする事が?』

『だから違うって、あなたが来る前から関係性築いたのに急に態度変えたらおかしいでしょ?この子ことは弟としか思ってない。でも軽率な行動したのはごめんなさい』

と私は謝った。

彼が来る前は男性社員と馬鹿な話して、ジュースじゃんけんに参加して、でも私はいつも奢ってもらってた。そうやって過ごして来たのに彼氏出来たら仲良くしちゃいけないの?奥さんや彼女が居る人がほとんどだ。

というか、いつどこで見られてるからわからない恐怖に襲われた。

そして今日は一緒に帰る日だ…何となく気まずい気がした。

仕事が終わり、彼の車に乗った。

「お、お疲れ様」

と私はちょっとおどおどしてしまった。

「お疲れ。てかなんで俺の前で他の男と仲良くするの?」

やっぱり来た、これ。

「別にあなたの前で仲良くしてる訳じゃなく、あなたが来る前からつるんでたから、どうしても仲良くするのは彼らになっちゃうの…女の人苦手だし。でも今後気をつけます

と言ったけど、私は悪者?

社内恋愛とはこれほど難しいものなのか。

でも焼きもち妬いてくれるって事は好きだからだよね、うん。

そう自分に言い聞かせた。

 

 

2022年3月8日公開

作品集『この世で最愛で最低な君へ』第21話 (全28話)

© 2022 実琴

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