この世で最愛で最低な君へ

この世で最愛で最低な君へ(第18話)

実琴

小説

1,432文字

人を愛する事が出来ない事に惰性していた私が初めて人を愛した人は優しくて最低な人でした。堕ちていく…愛に憎悪に

約束の土曜が来てしまった。今日はなるべく早く仕事を上がった。私は明日休み。そして彼氏という関係性の彼も日曜なので休み。ちょうどいいタイミングである。

仕事上がる少し前に彼に

『もうすぐ上がれるからこっちに来て』

とメール送っておいた。

『了解!』

と嬉しそうに返ってきた言葉に少し心が傷んだ。私はこれから別れ話をすると言うのに、彼には伝わっていない。

今日は土曜の為、大田さんは休みだ。

彼女と別れると言ってたけど連絡は来てない。今日はママが迎えに来てくれた。

「今日、この後あの子と会って別れる」

「そう」

たった一言ママは言った。

 

『着いたよ』

家にちょうど着いた時、彼から連絡がきた。

「ちょっと行ってくる」

とママに伝えて私は彼の元へと向かった。

彼の車を見つけて私は乗り込んだ。

「お疲れ様!なかなか会えなくて寂しかったんだけど」

「ごめん、責任者だから色々忙しくて」

「それにしても今日はなんでこんな時間に呼び出し?」

と彼が聞いてきた。

どう切り出すか色々考えたけど、やはりストレートに伝えるべきだと私は思った。

今の自分を素直にぶつける。

「当然で申し訳ないんだけど…私と別れて欲しいの」

その言葉口にした瞬間、時が止まったような気がした。

「…なんで」

彼はポツリとこぼした。

「なんでって…ごめん 、好きじゃないんだ。だからこれ以上もう会う事は出来ない。お願い、私と別れて」

「嫌だ、嫌だよ!絶対嫌だ!」

そう言った彼の目から涙が零れた

「俺は絶対別れたくない。嫌だ!嫌だ!」

泣きながら叫ぶ彼。男の人でこんなに泣く人居るんだ…と私は思った。

「どうして?何がいけないの?」

「好きと言う感情がないから、こんな状態で付き合っててお互い良くないでしょ?」

全ては私が悪い。もしかしたら好きになれるかもしれない…そんな風に付き合った。

ネトゲで知り合った為、本名は呼ばせなかった。手を繋ぐことも拒んだ。私は最低である。そして最後、彼を傷つけた。

でも好きな人が出来たと言う事だけは言わなかった

「本当ごめん、今までありがとう」

「どうしてもダメなの?」

彼は泣きじゃくりながら言った。

「うん、もうダメなんよ。ごめん」

「じゃ、最後にキスしたい」

「はぁ?」

思わず声に出てしまった

「いや、無理」

「なんで?」

「余計に引きずるだろうし、あたしそういう気分じゃないし。もう別れるんだからおしまい。わざわざ来てもらったのにごめんね。あたしよりいい人に会って」

「嫌だ、嫌だ」

その言葉を繰り返し彼は子供のように泣きじゃくった。

正直ドン引きである。

「じゃ、話はこれだけ。私帰るね」

「嫌だよ…ヒック…ううぅ」

「ここで別れなくても私はあなたと一生会わないのよ。だからごめん」

と車を降りようとした時、腕を引っ張られた。

「ちょっと何するの!」

彼はキスしようとしたのだった。

「やめてよ!」

私は何とか彼から逃げれた。でも彼は泣いている。

「本当ごめん」

そう言い残して彼の車を降りた。

彼の車はすぐには発車する事がなかった。まだ泣いているのか…彼は友達でもいいからと言っていたけど、これから別の人と付き合うのに友達でいてどうするの?どちらにしろ私はもうあなたとは会えない。そう誓った。

私は結局最初から最後まで彼を傷つける事しか出来なった。

仮に大田さんに出会っていなかったら関係は続いてたのだろうか…いや、大田さん関係なく彼の性欲にはうんざりしていた。

きっと何処か区切りをつけていただろう。

そしてこれは私の罪になった。

2022年3月4日公開

作品集『この世で最愛で最低な君へ』第18話 (全28話)

© 2022 実琴

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