家の近所に建っていた一軒家がある日突然ぶっ潰されていて、偶然にも幸運にもその最中に遭遇した。ショベルカーの先端の爪がその家の床も天井も壁も屋根なんかも関係なくバリバリバリって。チョコとか大納言あずきとかのアイスのボックスをアイスすくう奴で、アイスクリームディッシャーでぶりぶりぶりってやる感じ。そういう感じに見えた。
「危ないです危ないです」
警備員が寄ってきてそれ以上は見学NGになってしまったが、とにかくアイスクリームディッシャーでアイスぶりぶりぶりを見れたから満足して家に帰った。
次の日、あの家のどうなったんだ?と思って見に行くと、もう綺麗に更地になっていた。土だ。もう土。すでにショベルカーも無かったし、ガラ材を運ぶためのトラックも無かった。現場監督も警備員も立っていなかった。木片の一つも、家材の一つも落ちてなかった。
「アパート建つの?」
しかしその代わりに、なんとかっていう会社の看板が建っており、そこにアパートを建てるというのが書いてあった。家にしては広い土地を使っていたんだろうか。一軒家が建ってた場所にアパート建てるって大丈夫?もちろんそれについての知識は何もないし、関係ないから別にどうでもいいんだけど。そんな事もあるんだなあ。位の感じ。
次の日はもう基礎工事というか、いや基礎工事っていうのか知らないけど、取り合えずなんか掘ったりなんか、工員って言うのかな。そういう人達が来ており、そこ、その更地で何かやっていた。こういう時って最初はお神酒とか神主なのかなんか、あの白いのが付いた棒を振る人が来て、なんやかんややるんじゃないかと思うんだけど、個人的なイメージではそうだったんだけど、でも単に自分がその瞬間に間に合わなかっただけかもしれないし、あるいは昨今はそう言うのも全部スマホとかで済ませてしまうのかもしれない。スマホでGoogleで打ったら出るのかもしれない。『祈禱』みたいな。『御祈祷』みたいなの。
次の日は見に行かなかった。だってしばらくは基礎工事というか、なんかそう言うのだろうなと思って、それらには別に面白みを感じなかった。っていうかそもそも関係ないしな自分。
しかし昼時に近所のファミマご飯を買いに行くために外に出ると、パトカーの赤いランプが回っているのが見えた。音は出してない。でも明らかにあの更地の所。自分ちから更地は直接見えないけど、でもパトカーの尻が見える。更地の脇に停まってるんだ。
走って更地の前まで行くと、そこには多少の人だかりが出来ていた。
「何々?」
聞くと、そこから、更地を掘った所から骸骨が出たんだという。しゃれこうべ?
「バイきんぐのクイーンの『工事現場』のネタみたいに!?」
うほお。じゃあ見に来たらよかったなあ。あーあ。その日の夕方ヤフーニュースの地域の欄にそのニュースが出ていた。
『出てきた骸骨数点に事件性は無し。埋蔵文化財調査の為に近く調査をする予定』
らしい。へー。じゃあそれ終わるまでアパートは建てられない訳でしょ。大変だなあ。
昭和の年代の頃は、色々とそう言うのがあったらしい。あそこに老人ホームとか建てましょうとか学校を建てましょうってなって、土を掘り返してみると、骨とか、あと壺とか、なんかのかけらとか、そう言うのが日本各地色々なところから出てきてたらしい。で、その度にえらい人達がやってきて、学者の先生とか、あと学生の助手とか、そういう人達が来て、それらを写真に撮ったり、並べてみたり、出てきたものを調べたり、地形とか地層を調査していたらしい。そんで、埋蔵文化財調査報告書っていう同人誌みたいなのを作って、それを学校の棚とか、国の図書館とかの棚に入れる。満足。満足感。
昔はそう言うのがとてもあったらしい。今どきもあるなんて珍しいのか、あるいはそういうのの専門の人達から言わせたら、
「今もガンガンありますけど?勝手な事言ってぶっ殺すぞ!」
っていう事なのかは知らない。
そのヤフーニュースを見てから、dTVに移行して晩御飯食べながらバイきんぐのクイーンの工事現場のネタを観なおして、ご飯の皿とか箸とかコップとか洗って、それから外に出た。すっかり夜になっていた。空は晴れており月が出ていた。
ただの更地から埋蔵文化財調査のための土地と、望まれない進化を遂げた場所に行った。でも仕方ない。望まれない出産をしたんだもん。埋蔵文化財なんて出しちゃったんだもんなあ。遺跡、遺跡か遺跡の痕跡か、とにかくひりだしちゃった。トイレで出産して放置して逃げて捕まる女子高生みたいに。
「誰もいない」
その土地自体はビニールテープで囲われて入れないようにしてあったが、でも別に警備員もいないし、警察も誰も立ってないし、ブルーシートで覆われているわけでも何でもなかった。ただビニールテープで囲われて忌み地みたいになってるだけ。
「シャベル落ちてるじゃん」
昼間の基礎工事の工員さん達の忘れものだろうか。ビニールテープを跨いで忌み地と化したその土地に入り込んだ。
そんで落ちていたシャベルを使ってその場所を掘った。穿り返した。
自分にした所で、埋蔵文化財調査というものがとても大事な事だというのはわかる。わかってる。わかってるつもり。過去を知ることが現在未来を照らすものになる。貴重なデータになる。考え方にもなる。見えない未来を知るために過去を探るというのが大事なのはわかる。わかってる。わかってるつもり。
でもさ、日本のそういう遺跡のなんたらかんたらって、昔いた神の手、ゴッドハンドだって持て囃されて、でも実は自分で埋めては掘ってる、掘ってたっていう人のおかげで、もう大体めちゃくちゃなんでしょ?そう言うのを前にTwitterで見た。誰かがつぶやいていたのか、あるいはリツイートしてたのかわからないけど。そのせいで関東、東北、北海道はもう信用に足らないんでしょ?じゃあ、ここ埼玉だしいいよね。あ、だからあれか、ここにも別に警備員も警察も、ブルーシートすらないのか。ああ。
で、そこで何か、自分だけの何かが欲しかったというのが率直な気持ち。正直何の興味もない。でも、何かアイコン。何かアイコン、イコン。これからの自分の人生に何か。特別な何か。
そう言うのを求めていた。寄る辺。何か。何でもいい。特別な。これからの人生の寄る辺になるもの。先行き不明、不安定な人生を死ぬまで生きるための寄る辺。ビート板みたいなもの。カルネアデスの板みたいなもの。
「はあ、はあ、はあ」
穴を掘り始めるとすぐに汗だくになった。でも汗だくになったまま掘り返した。穿り返した。目に汗が入っても手は、シャベルは止めなかった。一心不乱になって掘った。途中何点かの骸骨、しゃれこうべは出てきたけど、別に特別でも何でもなかったから、シャベルで叩き壊した。ビスコみたいにすぐ粉々になった。壺かなにかの欠片とかも出てきたけど、同じように叩き壊した。
求めていたのは円盤石の欠片みたいなもの。何か特別な。配合の際にその円盤石の欠片を入れたら必ず目的の種類のモンスターが誕生する。そういう何か。特別な何か。
「でも自分にはこれがあるから」
辛い時も悲しい時も孤独に苛まれても死にたいと思っても、それを眺めていれば再び立てる、立ち上がれるような何か。作りかけ仏様の像とかでもいい。汚いロザリオとかでもいい。欠けたティラノザウルスの牙でもいい。小さいアンモナイトでもいい。三葉虫でもいい。何かそういうもの。何か。
そんな事を考えながら、ただ闇雲に掘り返した。夜。一人。音もない夜。はあはあ、という自分の気持ち悪い息遣いと、土を掘り返す音だけが繰り返される夜。
ガギイ!
「ぎゃあ!」
自分が死んだ時に埋まれるくらい。腰と膝を畳んで入れたらすっぽりと頭まで入れるくらい掘ったあたりで、死ぬほど固いものにシャベルの先がぶつかって、手、掌はもちろんの事、両肘、そっから顔、顎、頭まで衝撃が走って、その場にうずくまって悶絶した。よだれが出た。歯にも響いた。あと腰もガク゚っとなった。
「なんだ?なんだ一体」
底か?地球の底?
その辺の土を慎重に除けていくと、何か出てきた。
「何?何何?」
すっかり土を除けてしまうと、ハッチだった。
「はあ、はあ、ハッチ?」
宇宙船とか船とかのハッチ。真ん中の円を回して開けるタイプの奴。密閉性の高そうなやつ。バイオとかでは最後の研究所とかまで行かないと出てこない感じの。
「……」
上を見上げると月がちょうど真上ら辺まで上がっていた。上に着ていたシャツを脱いでそれを右手に巻いてから膝立ちになって馬乗りのような態勢になってからハッチに手を掛けた。
「ぎぎぎぎ」
固いジャムの蓋を開けるつもりで力を込めた。右回りっていうのか左回りって言うのかわからないけど、とにかくジャムの蓋開く方に回した。汗だくになっていた下着のTシャツに土がどろどろついた。膝頭も汗なのか土に含まれる湿気なのかわからないけど、すぐにグジュって気持ち悪くなった。
しかし、手は、手とか腕とか、肩とか?首とかもかな。上半身、下半身も、全部。私の全部はハッチを開けんとして諦めなかった。一回目が一番チャンスなのはわかっていた。一回目で開けられなかったらもう絶対に開けられない。そういうもんだから。
そうしてある瞬間、がごんと言ってハッチが動いた。回った。以降はどんどんと軽くなっていく。くるくる回る。そうしていよいよハッチが開いた。
「ひい、ひい、ひい…」
もう手に力が入らない。立ち上がって両手でもってやっとのことでハッチを開いた。
中には暗闇が広がっていた。ただ蜘蛛の糸みたいに梯子が一本下に向かって延びていた。
慎重に落ちないように慎重にはしごに足を掛けた。手の力が限界だから慎重に。ホントに。しかし体を全部ハッチの中に入れた際、誤って外に向かって開いたままになってるハッチに手が触れた。
そのハッチが落ちるように閉まるのと、挟まないように手を完全に中に入れるのが同時だった。でもその手は何も掴まず空切って、バランスを失い、足も踏み外して梯子から落ちた。暗闇を自由落下。散々に穴を掘った疲れがあった為に、諦めが生じた。意識が途切れた。
しかし、存外すぐに地面があったらしい。地面に尻を打って、
「ぎゃあ!」
ってなって意識を取り戻した。
それと同時にその暗闇に電気が付いた。LEDか?切れてない蛍光灯?
そこにはなんか空間が広がっていた。
「HOTEL R9 The Yardだ!」
それは、HOTELR9TheYardは、そのコンセプト、特徴はコンテナを使ったホテルという事。建築用に用いられたコンテナを並べているホテル。コンテナというユニークなステイスタイル。こだわりのデザインによる外観、一棟独立による安心のプライベート空間。 一日の疲れを癒すのに十分な設備と機能が詰まったコンテナホテルという新しいスタイル。 旅やビジネスで、いつもと違うくつろぎ宿泊体験を。
っていうホテル。
去年だったか一昨年だったかHOTELR9TheYard館林新栄店を館林に旅行に行った際に利用した。近くのつつじが岡公園で、つつじの季節というわけでもない、何でもないのに、なんかふと館林に行った。
板倉東洋大前駅の近くにトライアルがあって、千葉の佐倉に住んでいた頃よく酒々井店のトライアルにお世話になっていた。その時の事を思い出して久々に行きたくなった。更にその板倉東洋大前駅からバスが、つつじ観光バスって言うのが出ていて、舘林まで200円で行けた。だから館林に泊まることにした。あとあの辺の土地は、すぐに栃木、茨城、群馬、埼玉と混然一体となっているのも何かこう、
「いわくとか無いの?」
そんな魅力があった。群馬県のしっぽみたいなのが栃木茨木埼玉の間に挟まっているみたいな感じで。そしてそこに、そのしっぽの部分に件の板倉東洋大前駅と館林市が存在した。HOTELR9TheYard館林新栄店もあった。
そのHOTELR9TheYard館林新栄店みたいな空間が家の近所のアパート建てようと思って一軒家ぶっ潰して更地にしたのに、望まれない埋蔵文化財が出てきたおかげで、公衆トイレで子供産んで放置して逃げて捕まった女子高生みたいに埋蔵文化財調査地となって、ビニールテープで囲って忌み地みたいになってた地面の下から出てきた。
「何でだよ!?」
何でだよ、何なんだよこの空間。
内部は、その空間は綺麗そのものだった。梯子、ハッチがあった場所の下に若干の土と、自分が尻もちをついた時の土の汚れと、靴に付着していた土とそれくらい。それだけで、他は一切何も。ほこりとか、そう言うの一切ない。今日の朝新しいお客を向かい入れるためにベッド(ベッド!)メイキングとか部屋きれいに掃除したみたいに。在りし日の自分はHOTELR9TheYard館林新栄店で三泊したんだけど、朝出掛けて帰ってくると、ベッド(ベッド!)メイキングされてて、風呂場も綺麗になってたし、アメニティの類が補充されてたし、トイレットペーパーの先端も三角になってた。あれみたいに綺麗。キレイじゃん!美麗じゃん。
「おおお!」
急いで泥だらけの靴と靴下、ズボンを脱いだ。Tシャツも脱いだ。パンイチになった。靴を玄関スペースに置いてから、風呂場兼トイレと思われる扉を開けたら、当たり。トイレ、便器の中には清潔そうな水が溜まっている。うん筋の一つもない頬ずり出来るほど、舐めてもいいくらい綺麗な陶器。モデルルームのトイレ。そのトイレの水を流してみると、
「流れる!」
最初茶色い水とかでもない。脇のシャワーも出したら出た。水も出たし、お湯も出た。水からお湯も少しのインターバルも無く切り替わる。風呂場兼トイレのアメニティも充実していて、フェイスタオルもバスタオルも歯ブラシも剃刀も入浴剤もあった。
「入浴剤!?」
21世紀の森の香り。
とりあえずパンツを脱いでシャワーを浴びて全身の土を洗い流してから、お風呂に湯を張った。ズボンもシャツも下着のTシャツもパンツも靴下も土でどろどろで着替えが無い。でもとりあえずそれらは部屋にあったゴミ箱みたいな所に入れた。
風呂場兼トイレを少し離れたその一瞬、その一瞬の間に風呂の湯は6割程度張れていた。
「はあ?」
早くね?ただ、とりあえず21世紀の森の香りの入浴剤を入れて風呂に入った。21世紀の森の香りは信じられない程に森の香りだった。信じられない程フィトンチッド。目を閉じたら目の前に森の風景が広がった。シシガミの森みたいな森。しかも目を開けても森だった。風呂場兼トイレの壁と言い天井といい床といい全てが森になっていた。
「なんだこれおい」
入浴剤の小袋の裏面を確認した。うんたらかんたら書いてあるのは別に今時のと同じだけど、一番下に使用期限というのが書いてあって、
「使用期限2300年1月迄」
との記載がある。
バスタオル一枚巻いて風呂から出て、改めて室内を確認した。壁に緑の光がチカチカしている場所があって触ると、空中に画面がパソコン画面みたいなのが出てきた。
『2222年3月21日夜晴れ:着換えを御用意致します』
はい。
画面を押すと次の瞬間。壁の一部がパカッと開いてシャツ、ズボン、下着パンツ、靴下、靴に至るまでの全てが出てきた。玄関に置いていた靴、ゴミ箱に入れてた衣服の類は日本海側の海岸で拉致された人達のごとく消えていた。床に散らばった土もすっかり綺麗になっていた。
「……」
心配になったので着替えてから一旦梯子を上って天井のハッチを開けて外を見た。土の中だった。月が出ているのが見えた。更にハッチから出て、土の穴から出た。元居た世界だった。
家に帰って、スマホを確認した。2022年3月21日夜晴れだ。間違いない。間違いなく。
それから財布とスマホをもって穴に、ハッチの中に戻った。先ほどは気が付かなかったが、ハッチの内側にロックボタンがあって、梯子を下りる際にそれを押した。ゴゴゴっていう遺跡系冒険活劇映画系のような音が、だからインディーとかトゥームレイダーみたいな音がして、それですっかりハッチは開かなくなった。それから梯子を下りた。
『おかえりなさい!』
で、地面に降り立ったと同時位に、空中にそう書かれた画面が出た。
『ゲスト様の身分証明書を確認いたしました』
財布の中に普通自動車免許と、マイナンバーカードが入ってる。別に出したわけじゃない。財布に入れたままだ。でも確認されたらしい。
『おめでとうございます。現在21世紀のお客様限定で、永年無料サービスを行っております』
docomoのWi-Fi永年無料キャンペーンみたいな事言う。2012年9月からのやつ。こないだ終わったけど。2月8日に。あ、2022年2月8日に終わったけど。
『ニックネームをつけてください』
え?何?何が?ニックネーム?Siriとかコルタナとか、アレクサみたいな事?
『そうです』
そうですって。言ってないけど。言葉にしてないけど。
「じゃあ、とりあえず、カムエ」
『登録しました』
カムエ、最近観てる『カムカムエヴリバディ』から。
「そんな御客様はこんな事に興味があるんじゃないですか?』
カムエという名付けからなのか、興味がありそうなものが画面に色々と出た。トップ画面と言わずメールと言わず興味あるでしょ?って色々と提示してくるAmazonみたいな感じじゃないか。お話とか書いてる時にあれ何だったかな?ってAmazonで調べたりすることもあるんだよ。そう言うのも全部トップ画面だメールだで提示してくるけどさAmazonは。
しかし、23世紀の技術はすごいのか、確かなのか、まず、
『ラジオ英会話バックナンバー』
って言うのが出てきた。見るとAmazonで見るkindleの全巻セットのように21世紀セット、22世紀セットとなっていた。22世紀セットの方がオススメとなっている。オススメ!!ってなってる。1-checkで購入できるようになってる。1世紀分?1-checkで?1-check一世紀分?いや、スラムダンクとか天河じゃねえんだからさ。一世紀分ってワンピースとかコナンとかみたいな感じじゃん。いやゴルゴとかこち亀とかみたいな感じじゃん。京極さんの百鬼夜行シリーズ全部一気に購入して一気に読むみたいな感じじゃん。男はつらいよを全部ぶっ通しで観るみたいな感じじゃん。大変だろ。買っただけで満足しちゃわない?積読みたいにならないですか?
「あと、これはお金は?」
『お客様は永年無料です』
「じゃあほしい!」
そう言うと画面が切り替わり、これを購入する方はこういうものも購入してます。ってまるっきりAmazonとか楽天とかdショッピングみたいに画面が遷移した。
「エアーポッツですか?」
『無料です』
「じゃあほしい!」
そう言うと同時に食い気味に衣類が出てきたのと同じ壁の穴から、諸々が出てきた。エアーポッツはダイヤの指輪でも入ってそうなパカッて開くあれに入っていて、あの手触りのいい指輪とか入れる以外には役たたな箱に。ラジ英は一本のUSBメモリーだった。
「これをもし破滅派で話にして合評会に提出したら、またオーバーテクノロジーなのにUSBメモリってなんだよ」
って書かれそうって思った。
ともかくそのUSBメモリを使う、ラジ英を聞いてみるべくデスクの上に設置されてるパソコンをつけようと、起動ボタンどこだ?って手をかざしただけで、パソコンは起動した。1秒もかからずデスクトップ画面が出た。
「早!」
え?あ、元々スタンバイ状態だったんでしょ?
USBメモリはパソコンの上にあったAnkerのワイヤレス充電器みたいな突起の上に置いたら、自動的にフォルダが開かれた。手がマウスの役割を果たしているらしく、空を切っただけでフォルダの中をスクロールした。エアーポッツは指輪入れから出して左右の耳に入れたら自動的にパソコンと繋がった。ついでに自分が家から持ってきたスマホにもつ繋がった。あとカムエにも繋がった。
なんだかわからないうちに諸々準備が整ってしまったので、ともかくラジ英の一つをクリックして聞いてみることにした。一世紀分の中から適当に一つ選んで再生した。
「…ちゅぱ、ちゅ、ちゅちゅ、ちゅぱあ…」
ASMRだった。
それが圧倒的なパソコンの技術と圧倒的なエアーポッツの技術によって耳に、圧倒的な技術の暴力となった耳舐めASMRが耳に。何の予備知識も無く、ただ普通のラジ英だと思っていた耳に。カムエ、あ、カムカムエヴリバディの事を想像しながら川栄、あ、ラジ英を聞こうと思っていた耳に。両耳に。
「うぅん、ちゅぱ、ねえ、とりあえず一回ぴゅっぴゅしちゃおぅ?」
見ると下半身が、ズボンの社会の窓の部分がテントになっていた。あっという間にテント。そのまま限界まで膨らんだアドバルーンみたいになった所で、一切の抵抗も無く、手で触ってもいないのに、
「ああ」
出た。精子が出た。側にティッシュがあったが、それに手を伸ばす間もなく、出た。十代みたいに出た。ズボンの布を通り越して精子が出た。すごい出た。ズボン通り越して着ていたシャツに精子がかかった。
「ストップ!」
あまりの出来事に叫んでいた。だって精子出たんだもん。だって。
ラジ英は止まった。
エアーポッツを外してズボンを脱いだ。さっき替えたばかりのズボンもパンツも精子でドロッドロになっていた。何だこれってなった。何だおい!って。
「着換えを用意しますか?」
目の前にパソコンの画面とは違う、またモニターが出現した。はいはいはい!
壁の穴からシャツも靴も含めてまた一式が出てきた。
風呂場に駆け込んでシャワーで精子を洗い流した。さっき使ったのとは違う新品のバスタオルで拭いて風呂場から出た。
「……」
それから梯子を上ってハッチのロックがかかってるのを改めて確認してから、あえて替えの服は着ずに全裸でパソコンの前に戻った。一旦USBのラジ英のフォルダは最小化した。しかしデスクトップには一切のアイコンが無い。青い四角が四つ。光ってる青い四角が四つ。
『OKGoogleと言えばGoogleが起動します。オケグでも起動します』
画面の下の方からヒントが出た。
「OKGoogle」
そう言うとウィンドウが開かれて、しかしGoogleの画面ではなく、
『HOTEL OPA2 墨瓦臘泥加店へようこそ』
というのがまず出てきた。ネットカフェマンボーとかの感じだろう。最初は専用のページが開かれるんだろうな。
墨瓦臘泥加店って言うのが読めないけども、とりあえずGoogleに行った。GoogleのページのGoogleの文字の部分に綺麗な桜が咲いていた。
『今日は2222年3月21日の春分の日』
そっからウィキに飛んだ。
ラジ英の事を調べた。
22世紀以降のラジオ英会話
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
22世紀以降のラジオ英会話は、大きな方向転換が行われました。
何?
画面の左側部分に23世紀初頭のラジオ英会話のジャケット。という写真が貼り付けてありそれをクリックするとジャケットが画面に大写しになった。そこには小林なんとかっていう人の名前が書かれており、下には、
『22世紀の男子は皆この人のASMRで精通をした!』
とか、
『稀代のエロカリ!エロカリスマ!無情なる精子搾取者!略奪者!』
とか、書いてあった。その小林なんとかっていう人がラジオ英会話をやってるらしい。それがNHKとDMMでストリーミング出来て、NHKプラスでスマホでアプリでも簡単に聞けるんだと。
そのおかげでNHKは一気に左うちわになって、受信料の徴収スタッフも必要なくなり、その分ウハウハ、民放放送局総ざらいでぶっ潰す、ぶっ潰したらしい。NHKをぶっ壊す党さえ、逆にぶっ壊して、そうして2220年にはさらにラジオ英会話VRの導入も行い(ガチの挿入感!本当のフェラ感!もはや他に何もいらない!)、2230年にはNHK放送センター本部を要していた渋谷区を全てNHK区とし、2240年には1000m級の電波塔を全国46都道府県におっ立てて、ドコモソフトバンクauを買収して統合して『NHK』として他は全部ぶっ潰して、2250年には世界全土にNHKタワー(通称Dick、Cock、Tool、Joystick等)を建てて、2260年には世界全土全ての人間にNHKチップを埋め込み、小林何とかは世界中どこからでも精子を搾り取る存在になった。ちなみに女性陣には女性陣専用の、炉久井なんとかっていうのが存在しており、それがキスして舌を入れて来たり、乳首摘まみ上げたり、乳房揉みしだいたり、チンコ入れてくる。尻の穴にも入れるし、尻の穴ほじくられても性病にもならなくて性病感染者が激減したりした。
らしい。だ、そうだ。ウィキに書いてる。そう書いている。
「でも……」
それはわかる。わかった。こんな自分でもわかった。だって、さっきのちょっとだけの、さきっちょだけのAMSRでもわかったもん。2011年の週刊プレイボーイ2011AVオブ・ザ・イヤーの時のつぼみよりも、2014年のDMMアワード2014最優秀女優賞プラチナの時の上原亜衣よりもエロいもん。
糞ほどエロいもん。エロかったもん。先っちょだけでわかった。マジックミラー号と顔は新宿体は車内!!足したくらいエロいもん。エロかったもん。これ以外何もいらない。確かにそう。ホントそう。
ちなみにさっき使っていたエアーポッツはNHKがappleとSonyとBOSEを買収して一つにまとめて作ったもんだそうだ。OKGoogleの言葉は残ってるけど、それもWindowsとGoogleとappleのMacbook部門をまとめて一つにしたらしい。ゲームなんかもSonyのゲーム部門と任天堂とWindowsのXbox部門とsteamまとめて一つにしたらしい。
それからVRゴーグルも購入した。Amazonもとっくに楽天とYahooショッピングとかとNHKの下で一つにまとめられていた。
そうしてラジ英の22世紀バックナンバーをVRゴーグル使って一つずつストリーミングしていった。出る出る。それはもう出る出る。1ストリーミングごとに。出る出る出る出る。ねるねるねるね。出る出る出るで。精子。作って精子。もっと作って。作った脇から放出されるから。需要が凄いから。敗戦後の高度経済成長くらいの勢い。エンパイアステートビル買収した時くらいのバブル。
ちなみに、世界全土総人口にNHKチップ入れて、それ以降生まれる子供は体内で成形された段階で自動でNHKチップも搭載される。そのチップのおかげで英語とか日本語とか、そういう言葉の壁も無くなったらしい。別に英語は地球語でもなくなってる。
一世紀分のラジ英をベッド(ベッド!)に寝転がってずっとストリーミングしていた。
VRゴーグルの中では自分の上に跨った小林なんとかがいる。
「トゥギャザーしよう、んぅんん、うぅんん、ちゅぱちゅぱ」
って腰降りながらキスして舌入れてきながら言ってる。それで糞ほど出る。十代。掌を広げた際の親指の角度で出る。金玉がゴマ粒大になるほど精子出る。天井まで。元居た世界まで。雲の上まで。空の上まで。天上世界まで。極楽浄土まで精子出る。
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