白く細い指が榛色の繊細な髪を編んでいく。先を三センチほど残してリボンでまとめると、冷たい手の中で花飾りがちりちりと鳴った。
終わったと軽く肩を叩かれた少女はぱっと振り向いた。確かめるように首を左右に動かして、やがて三つ編みの出来栄えに満足したのか、花が咲くように笑った。
(あのひとたち ちがった?)
少女の手がそう動く。青い瞳に不安の色がよぎったのを、情報屋は見逃さなかった。
「そうか。俺が伝えていた雰囲気に似ていたから、あの二人を連れてきたのか」
少女はこくりと頷いた。
(ごめんなさい)
「いや、頼んでいたのは俺の方だ。ありがとう」
礼を言われた少女は恥ずかしそうに微笑んだ。言葉よりも表情の方が饒舌で色彩豊かだった。
(わたしの おとうさん みつかった?)
躊躇いがちに少女は手を動かす。
「まだだ」
これまで何度となく繰り返してきたやりとりだった。少女は悲しげに肩を落として、三つ編みの先の花にそっと手を伸ばした。
(また あえる?)
立てた両の人差し指を寄り添わせる仕草。あいたい、と小さな唇が声もなく動く。
「いつか、な」
少女は指切りをするように両手の小指を絡ませる。
「約束はできない。でも、いつか、だ」
少女は小さく頷いた。
(あなたも 大切な人 あえると いいね)
情報屋は何も言わず、夜の帳を下ろすようにただ目を閉じた。
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