01 ハルシネイション

EOSOPHOBIA(第1話)

篠乃崎碧海

小説

14,757文字

博打と麻薬は夜の色をしている。

――夜を生きる人達のお話。しばらく連載します。

 

 白く細い指が榛色の繊細な髪を編んでいく。先を三センチほど残してリボンでまとめると、冷たい手の中で花飾りがちりちりと鳴った。

 終わったと軽く肩を叩かれた少女はぱっと振り向いた。確かめるように首を左右に動かして、やがて三つ編みの出来栄えに満足したのか、花が咲くように笑った。

(あのひとたち ちがった?)

 少女の手がそう動く。青い瞳に不安の色がよぎったのを、情報屋は見逃さなかった。

「そうか。俺が伝えていた雰囲気に似ていたから、あの二人を連れてきたのか」

 少女はこくりと頷いた。

(ごめんなさい)

「いや、頼んでいたのは俺の方だ。ありがとう」

 礼を言われた少女は恥ずかしそうに微笑んだ。言葉よりも表情の方が饒舌で色彩豊かだった。

(わたしの おとうさん みつかった?)

 躊躇いがちに少女は手を動かす。

「まだだ」

 これまで何度となく繰り返してきたやりとりだった。少女は悲しげに肩を落として、三つ編みの先の花にそっと手を伸ばした。

(また あえる?)

 立てた両の人差し指を寄り添わせる仕草。あいたい、と小さな唇が声もなく動く。

「いつか、な」

 少女は指切りをするように両手の小指を絡ませる。

「約束はできない。でも、いつか、だ」

 少女は小さく頷いた。

(あなたも 大切な人 あえると いいね)

 情報屋は何も言わず、夜の帳を下ろすようにただ目を閉じた。

 

2021年8月1日公開

作品集『EOSOPHOBIA』第1話 (全9話)

© 2021 篠乃崎碧海

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