別れ話

諏訪真

小説

770文字

別れ話を切り出されるより、多分切り出したほうが傷が浅くていい、と思っているんだろう。

掌編祭参加作品 その三
https://note.com/sait3110c/n/n6667047e3d08

別れ話をどう切り出そうか迷っている。カナミがヨシト、タカヒロ達にチョコレートを渡しているのを見てしまった。それが本命ではないことを理解している。

だが、その温度感が分からなかった。俺の時とあいつ等の時と、その差が俺にはほとんど同じにすら見えてしまったからだ。カナミはよくモテた。なぜ俺と付き合っているのか、今でも分からない。確か付き合うきっかけはカナミからだった。俺から言うことは無理だっただろう。本当にあっけらかんと、カラオケに行った帰りに、来週も行こうか、という位のノリで「あたしら付き合おうか」と。その時のカナミの気持ちは分からない。ヨシトに渡している時のこともだ。その理由が分からなかいからこそ、きっとそのうち俺達の関係も破綻する。これ以上一緒にいることも無理なのだろう。

 

LINE通話でカナミを呼び出した。秒で繋がった。
『どしたん?』と。
『ああ、えっとさ……』

ごめん、やっぱり俺ら無理だわ。そう言ってしまえばいい。ああ、待て。なんの話題からそう繋げるんだ? ヨシトの件からだろう? あいつ等のことを聞けばいいだろう。「ぶっちゃけ誰でも良かったんだろうが。あいつに渡したアレ、一体何だよ?」と。

駄目だ……みっともなくて聞けない。

『そういえば、お前ホワイトデー何が欲しかったっけ?』

とっさに連想的にホワイトデーのことを聞いてしまった。

『なんでもいいよ』とカナミは気だるげに言った。続けて

『あ、でも、何か食いに行った方が嬉しいかも』

それだけ聞くと通話を切った。鏡を見るまでもなく、俺はきっと今とてもバカみたいな顔をしている。だからこれ以上みっともなくさせないために、最後の勇気を振り絞って明日カナミに直接言うだろう。そう思ったがきっと明日までだと切り出すシナリオも思いつかないので、ホワイトデーまではかかりそうだとボンヤリと思った。

2021年2月4日公開

© 2021 諏訪真

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