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どこまでその夢と現実の差を受け止められるのだろうか

タグ: #純文学 #虫

小説

486文字

深い深い緑葉の下、私は全身に蝉時雨を浴びているはずであった。

 

ある日のことだ。いつものように重たい土を押しのけて、自分ひとり分の空間で、じっと動かずにいた。かすかに頭上から染込んでくる蝉の声を聞いていたのだ。蝉のやつは昨年までは同じ土の中にいたというのに、先日人の頭を押しのけて、はるか上空へ、何か果たしきらねばならぬ使命でも背負うかのように一心に上っていくのであった。そんな蝉の時雨が染込む土中で私もまた、その使命の授けられる日を待ち続けているのだ。

いや、使命などどうでもよい。私はただ、青空を、深緑を、太陽を、天頂突き抜ける入道雲を、夏というやつを謳歌したいのだ。私はこの森の王者たる甲虫。巨木に群がるすべての虫を退け、黄金の樹液を豪快に啜る。喧嘩っ早い鍬形を投げ打ち、新樹の蜜を貪り尽くして夏を生きる。

そのときが、来ている。黄金の薄皮を脱ぎ取り、赤土色のまだ柔らかい前足で土をかく。使命などまだ分らないが私も去年の蝉のごとく天上を目指して上る。

冷たい土が温くなりはじめる頃、私は全身を震えさせるような音を聞く。

そこにあったのは黒いアスファルトの大地だった。

© 2012 渡海 小波津 ( 2012年9月9日公開

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