『ひとはどこ?』
君は一貫して惚けてる。こうして話しているとキャラがあるのは分かる。実在してるからね。でも君についてぜんぜん書けない。辛うじてわかるのは、君は「ひとをさがしてる」ということだ。
下北沢にいる。われわれ。小田急開通して便利だけど分かりづらいよ。やっぱつれえわ。
君は明るく話すのだが惚けてる。
ちゃあんと勉強して、頭もよく、堅実に生きてる。でも実態がつかめない。お前はカーテンか?
「タピオカには鬼の遺伝子が混じってるよって同僚に言うたら、『ふーん』って返された。敗北感を感じる」
あっ、あっ、ダブルミーニング。
曇り空の下、明るい口調なんだけど。
君の声は低い。機嫌が悪いわけでも体調が優れないわけでもない。ただ不用意に声を高くすることを避けている。そんなことしたら不意に光が照りつけてしまうだろ、って言いたげ。
サーッ。サザーッ。
まっくろくろすけが、引いていく音で理解してくれよ。
「同期なのに。同い年なのに。真面目に話したのに『ほーん』で終わった悲しさ。おわかり?」
おわかる。
あれだろ、あの。
光がいつもひかりひかりしてうるさいから、たまにはおれたち闇カスの分際だけど精一杯に光度合わせようとしたら、『ふーん』で終わったっていうさ。
「惜しい」
君は言う。
なにがやろ。
この話のどこに君がいるのだろ。
われわれは下北沢の湿ったコンクリをてくてく歩いちょるんやが、君はいずこなんじゃろ。同じいんのものなんだけどなぁ。
「しゃ、しゃわやかシャドウ野郎」
君はご機嫌にのたまう。鼻歌だって歌ってる。なんなら蝶が舞う描写もするよ、ひらひらり。
でも、ぜんぜんさわやかサンシャインじゃない。われわれは何をしてもささくれシャドウ野郎。コンクリがかてえや。
「ライブ、楽しいとよいね」
今日はほんとはライブに行くプラン。そうキャラは言ってる。でも君は言ってるか?
頼むぜ。
だから歩いてるんだろ。なあそうだろ。行く宛もない訳じゃないだろ。影あるよな?そこにいるよな?頼むよ、そう言ってくれ。
『ひとはどこ?』
これだよ、声が聞こえる。カァ、ってカラスじゃない。ニャアって、猫でもない。 われわれの鳴き声は疑問符だ。『ひ?と?は?ど?こ?』って、いん。
ヘイ、いんのもの。シャドウ野郎。心の声。ヘイ、いんのもの。ひとはどこ。疑問符に気を付けろ。
「おったよ」
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