絶滅者 43

hongoumasato

小説

1,890文字

清彦との最終決戦を終え、オアシスー―我が家へと帰還した「ワタシ。
ついに、平穏で愛する家庭を取り戻した・・・そう思っていた。
だが家に足を踏み入れた瞬間、全ての真相が「ワタシ」に流入してきて・・・

クリーム色の我が家。

 

今、ワタシはその前にいる。

 

ここを出て随分、時間が経ったように感じる。

 

ワタシは扉を開け、一歩我が家へと足を踏み入れた。

 

この世で唯一、愛している家族の元へ!

 

帰ってきたんだ!

 

その瞬間、全身を電撃が貫いた。

 

真実が突然、脳に流入される。

 

一家心中の。

 

「異形のモノは記憶操作ができる」―—甦る清彦の言葉。

 

……何度か耳にした通りだ。

 

心中は失敗した。

 

あの日。

 

一家心中した日。

 

車がガードレールを突き破ることはなかった。

 

直前で、父が急ブレーキを踏んだから。

 

車内では「心中すらできないのか……」と、自分の無力を呪う父の嗚咽が聞こえた。

 

母の笑顔は空虚だった。

 

弟は呆然としていた。

 

結局、そのまま帰宅した。

 

帰路で、口を開く者はいなかった。

 

待っていたのは、やはり地獄だった。

 

若松達は着実に、売春と臓器売買の準備を進めていた。

 

父と母は絶望した。

 

新しい学校でも、小心者であることがばれた弟。

 

「またイジめられる」―—その恐怖が弟を押し潰していく。

 

ワタシ以外の家族は、生きる気力を無くした。

 

むしろ「死」という、苦痛からの永遠の解放を渇望した。

 

父は首を吊ろうとした。

 

ワタシは止めた。

 

なぜ父が死ななければならない!

 

その生を止められるべきは、不実な者達。

 

存在全てを否定されるべき。

 

父はそうではない。

 

けれど……父は娘のワタシに哀願した――「死なせてくれ」と。

 

父の最後の願い。

 

ワタシは叶えてあげた。

 

ワタシ自身の手で。

 

首を折った。

 

すぐ元に戻した。

 

涎を垂らし、目を剥き出して舌が飛び出た父の顔など、見たくなかったから。

 

母は手首を切ろうと出刃包丁を持った。

 

その包丁を見た瞬間、真実が脳内に広がった。

 

近所で小動物を殺し続けたのは、弟ではない。

 

「わたし」だ。

 

あの頃からすでに、「破壊」の修練を行っていたらしい。

 

異形のモノの、秘密裏の誘導によって。

 

弟は偶然、現場を目撃した。

 

自分の姉が、可愛らしい犬や猫を切り刻むのを。

 

だからあんな、哀しげな視線を寄越した。

 

小心者の弟が犯人なら、ワタシ達の見えない所で息を潜める。

 

何も言わず、血に濡れた包丁を洗っていた母。

 

母も知っていた。

 

ワタシが殺ったことを。

 

藤堂の女系には狂人が多い。

 

中には「後発性」の者もいるだろう。

 

母は、ワタシも遂に発症したと考えた。

 

ワタシは母の自殺も止めた。

 

母の笑顔が欲しかった。

 

その発端が何であれ、母の笑顔でワタシも家族も癒された。

 

人が最も美しく死ねる方法。

 

凍死かガス吸引。

 

ワタシは後者を母に行った。

 

現在の住宅用ガスで自殺は至難。

 

呼吸器系統に、異物を混入させた。

 

弟は、新しい学校の屋上から飛び降りようとした。

 

ワタシはこの手で弟を抱え、屋上から空へと放った。

 

宙に一瞬浮いた弟は、泣き笑いの顔をワタシに向けた。

 

ジェットコースターでは悲鳴を上げていたのに、落ちていく弟の顔は、とても穏やかだった。

 

ワタシは地上で、弟のバラバラになった肉体を、手作業で復元した。

 

「作業」中に、信頼していた教師に犯され妊娠し、子供共々四散した同級生の顔が、頭にふと浮かんだ。

 

内臓の詰め方がマズかったのか、弟の胴体は大きく膨らんでしまった。

 

貧相よりも貫禄があった方がいい。

 

ワタシは泣きながら、一人強がってみせた。

 

それらの記憶を、異形のモノが消した。

 

シナリオ通りに、ワタシが復讐を始めるために。

 

破壊を進めるために。

 

でも、不愉快ではない。

 

また、家族が揃ったのだ。

 

今度こそ、永遠に一緒にいられる。

 

邪魔が入っても、破壊できる能力は手に入れた。

2019年2月24日公開

© 2019 hongoumasato

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