ゴリラ頭取が、鼻息も荒く頭取室に駆け込んでくる。
「と、頭取……」
真っ青な顔を向ける、枯れ木のようなネズミ副頭取。
ゴリラの豪勢なデスクの上には、リストラ・リストを咥えた生首が二つ載っていた。
小峰と田端だ。
銀行は騒然となった。
業務は全て停止。
警察による現場検証が行われ、マスコミ達が砂糖に群がる蟻のように押し寄せた。
ゴリラ達幹部も、警察から何時間も事情聴取された。
ワタシは朝からその様子を眺めていた。もちろん、姿を消して。
深夜、ようやく待ち望んだ好機が訪れた。
銀行幹部達九人が、一同に会したのだ。
会議室で、善後策を検討している。
「マスコミどもには何も話すな! 質問してきやがったら『警察に任せてある』だ! 全行員に徹底させろ! 警察にも余計な事は言うなよ! 本当にうちは何も知らないんだからな!」
喚き散らすゴリラだが、首だけになった二人がリストラチームに所属していたことは、警察に報告せざるを得なかった。
その結果、警察にリストラ・リストを任意提出している。
提出を突っぱねても、リスト入所のため警察は礼状を取る。
結局、リストは外に洩れる。
そして「非協力的」として、警察に睨まれる。
ならば、さっさと提出した方が賢明だとゴリラは判断した。
「警察の奴等、今頃リストラされた行員達を徹底的に洗ってるぞ。クビにした連中は当然、当行を恨んでる。マズイ事を警察に喋られる恐れはある」
幹部達の保身談義が延々と続きそうになった。
こんな下らない話に付き合う気はない。
幹部達は「コの字」型に並んだテーブルに座っている。
上座には、当然のようにゴリラ一人だけが鷹揚に座っていた。
ワタシは「コの字」の中央で、ステルスを解いた。
唐突なワタシの出現で、会議室の時間が止まる。
幹部達は唖然として、口をポカンと開けている。
高学歴・高収入の連中達のマヌケ面。
こんなマヌケ面した人間達が、相変わらず高額の給与を得ている。
自分達のビジネス失敗を、国民の税金で補填させて。
日々真面目に働いている人間達を、容赦なく解雇して。
リストラされた人間の中には、誇りと生きる気力を失い、自ら命を絶った者が沢山いる。
その者達は、全員地獄へ行く。
永遠に呪詛を吐き続ける。父や母のように。
翻って、この連中はどうだ?
「だ、誰かね、君は?」
ネズミが、裏返った声で訊ねる。
他の幹部連中も状況を理解できず、呆然としている。
ゴリラだけが、無表情にワタシを凝視している。
「アンタ達が、顔すら知らない行員の娘。平気で解雇したくせに、もうその人間の事など忘れたんでしょう?」
「鈴木の娘だろ」
間髪入れず返ってきた、ゴリラの低いダミ声。
鈴木は父の旧姓。
ワタシはゴリラに面識など無い。
「なぜ分かるの?」
「血だ。藤堂の血だ。その臭いがプンプンしやがる。鈴木――お前の親父は、ここにいる全員が知っている。アイツの女房、お前の母親はうちの有名人だからな」
「アイツの娘か!」――言葉にならない衝撃が、幹部達に走る。
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