絶滅者 18

hongoumasato

小説

1,210文字

リストラチームの二人を葬った「ワタシ」は、ついに藤堂直営の銀行に乗り込む。
深夜に開かれた、緊急幹部会議。
そこに突然現れる「ワタシ」。
「ワタシ」とゴリラ頭取の、腹の探り合いが始まって・・・

ゴリラ頭取が、鼻息も荒く頭取室に駆け込んでくる。

「と、頭取……」

真っ青な顔を向ける、枯れ木のようなネズミ副頭取。

ゴリラの豪勢なデスクの上には、リストラ・リストを咥えた生首が二つ載っていた。

小峰と田端だ。

銀行は騒然となった。

業務は全て停止。

警察による現場検証が行われ、マスコミ達が砂糖に群がる蟻のように押し寄せた。

ゴリラ達幹部も、警察から何時間も事情聴取された。

ワタシは朝からその様子を眺めていた。もちろん、姿を消して。

 

深夜、ようやく待ち望んだ好機が訪れた。

銀行幹部達九人が、一同に会したのだ。

会議室で、善後策を検討している。

「マスコミどもには何も話すな! 質問してきやがったら『警察に任せてある』だ! 全行員に徹底させろ! 警察にも余計な事は言うなよ! 本当にうちは何も知らないんだからな!」

喚き散らすゴリラだが、首だけになった二人がリストラチームに所属していたことは、警察に報告せざるを得なかった。

その結果、警察にリストラ・リストを任意提出している。

提出を突っぱねても、リスト入所のため警察は礼状を取る。

結局、リストは外に洩れる。

そして「非協力的」として、警察に睨まれる。

ならば、さっさと提出した方が賢明だとゴリラは判断した。

「警察の奴等、今頃リストラされた行員達を徹底的に洗ってるぞ。クビにした連中は当然、当行を恨んでる。マズイ事を警察に喋られる恐れはある」

幹部達の保身談義が延々と続きそうになった。

こんな下らない話に付き合う気はない。

幹部達は「コの字」型に並んだテーブルに座っている。

上座には、当然のようにゴリラ一人だけが鷹揚に座っていた。

ワタシは「コの字」の中央で、ステルスを解いた。

唐突なワタシの出現で、会議室の時間が止まる。

幹部達は唖然として、口をポカンと開けている。

高学歴・高収入の連中達のマヌケ面。

こんなマヌケ面した人間達が、相変わらず高額の給与を得ている。

自分達のビジネス失敗を、国民の税金で補填させて。

日々真面目に働いている人間達を、容赦なく解雇して。

リストラされた人間の中には、誇りと生きる気力を失い、自ら命を絶った者が沢山いる。

その者達は、全員地獄へ行く。

永遠に呪詛を吐き続ける。父や母のように。

翻って、この連中はどうだ?

「だ、誰かね、君は?」

ネズミが、裏返った声で訊ねる。

他の幹部連中も状況を理解できず、呆然としている。

ゴリラだけが、無表情にワタシを凝視している。

「アンタ達が、顔すら知らない行員の娘。平気で解雇したくせに、もうその人間の事など忘れたんでしょう?」

「鈴木の娘だろ」

間髪入れず返ってきた、ゴリラの低いダミ声。

鈴木は父の旧姓。

ワタシはゴリラに面識など無い。

「なぜ分かるの?」

「血だ。藤堂の血だ。その臭いがプンプンしやがる。鈴木――お前の親父は、ここにいる全員が知っている。アイツの女房、お前の母親はうちの有名人だからな」

「アイツの娘か!」――言葉にならない衝撃が、幹部達に走る。

2019年2月17日公開

© 2019 hongoumasato

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