絶滅者 4

hongoumasato

小説

1,562文字

人間は生きるに値するか? 少女の復讐、始まる。

そこで「イメージ」は消えました。わたしは再び、漆黒の闇の中にいました。

異形のモノは、黙ってわたしを見下ろしています。

許容量を超えた「イメージ」流入で、肉体も精神も限界の中、この怪物には「表情」があるのかなと、陳腐な考えが頭に浮かびます。わたしは異形のモノについて、何一つ分かりません。

「やがて禍々しき者達がお前のもとへやってくる。その者達はお前に絶望をもたらす。その元凶はお前の父。恐怖の中にあっても、目を開け。耳を澄ませ。後にお前に与えられし宿命を全うするため」

 

他の家族にバレないよう、そっと二階の自室から洗濯室へ。けれどまた、母が洗濯室に入ってきました。わたしは母が無駄な期待を膨らます前に、黙って首を振りました。

「ねえ、何かあったの? 良かったら、話してくれない? 今すぐじゃなくていいから」

母はいつもの優しい笑顔。目は洗濯機の方を向いていましたが。

「お母さん、心配しないで。最近凄く恐い夢を見るの。それで、その……でも、大丈夫」

それ以上追及せず、笑みだけを残して洗濯室を出て行く母。

わたしは溜め息をついて、洗濯機に両手をつきました。

昨日、異形のモノが見せた生々しい「イメージ」は真実でしょう。洗濯機を回しながら、父のあの後を考えました。

「父が急に大金を得た」「禍々しい男達がやってくる」――行き着く答えは一つ。

父はレナを取り戻すため、危険な連中から金を借りたのでしょう。

闇金は多重債務者にさえ、金を貸します。手段を選ばず、金を回収する連中だから。

わたしは父に怒りも呆れも感じません。女狐に捨てられ、全てを失い、どん底の父が戻ってきたのは、我が家でした。父が最後に拠り所としたのは、わたし達家族でした。

この時、わたしはまだ気付いていませんでした。

自分に宿りつつある力を。

異形のモノが教えたわけでもないのに、父が闇金に手を出したことを、小学生の自分が確信できる奇妙さを。ただ、異形のモノの言う「宿命」については、全く分かりません。

けれど「禍々しき者達がやってくる」ことは分かります。

わたしは洗濯機にもたれながら、憩いの我が家に思いを馳せました。

わたし達家族の思い出が、全て詰まった我が家。家族だけの我が家。家族全員にとって、唯一のオアシスである我が家。

父にとって唯一、金目のものとなる我が家……。

 

すぐに異形のモノの言う通りになりました。

わたし達家族の聖域に、禍々しい者達がやってきたのです。

「二階の自分の部屋に行ってもらえるかな……」

父が弱々しくわたしと弟、母に言いました。

弟は訳も分からず、ただわたしと母のただならぬ緊張感を感じ、脅えながら二階への階段を駆け上がりました。母もこの時を予感していたらしく、震えながら二階へ。

わたしは母の後に続くフリをして、踊り場に身を潜め、玄関の様子を窺います。異形のモノが言った通りに……「目を開け。耳を澄ませ」。これから家族に起こること全てを、見届けねば。

現れたのは三人の男達。三匹の死神――取立て屋。

一人はスーツ姿の中年男。

その後ろに金髪でモヒカンの、目が異常に吊りあがったチンピラ。

そして海坊主そのものの、坊主頭の図体のデカイ男。

ヤクザ達。

玄関で父と中年ヤクザが、何やら話していました。その声は、踊り場まで届きません。

中年ヤクザがリーダー兼「交渉」役。後ろのチンピラ二人は、威嚇役なのでしょう。

わたしには最も邪悪な存在が、中年ヤクザだとすぐに分かりました。アンダーグラウンドを生き抜いてきた悪党。その声は届かなくても、染み付いた血の臭いは届きます。「平気で」ではなく「進んで」他人を痛めつけてきた男。人の心や命を破壊することこそが、この男のアイデンティティ。

わたしにはそれを察知する能力が、すでに備わっていました。

わたしはすでに、「覚醒」しつつあったのです。

2019年2月9日公開

© 2019 hongoumasato

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