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さるきちとぼく

浅谷童夏

破滅派25号「児童文学」応募作「猿に勝つ」の原案はこれです。ちなみに対象年齢10歳以下の設定にしていました。でもなんだか児童向けにしてはホラー風味が強すぎる気がしたので内容を変えて応募作を書きました。

タグ: #ファンタジー #ホラー

小説

2,099文字

ジャングルジムの公園のうらの森を1人でたんけんしたのが良くなかった。道にまよってしまった。

夕方になって、あたりはだんだん暗くなってくる。

森の中を歩いていると、同じところを何度もぐるぐる回っているらしいことに気がついた。

こういうときは、むやみに歩き回らない方がいいんだって、何かの本で読んだ気がする。足もだいぶつかれた。だからそばにあった大きな木の根元に、ぼくはこしをおろす。

 

少しうとうとして、気がつくとサルがぼくの前に立っている。すわっているぼくと、背の高さがほとんど変わらない。

いきなりサルが言う。

「おいらさるきちだよ。ねえ、おいらと体を取り替えてみないかい?」

「いやだ」とぼくは答える。

「さるきちの体は、すごく動きやすいんだよ」

「ふうん」

「どんな高い木にだって、すいすい登れるんだよ」

ぼくは考える。ぼくは夢を見ているんじゃないだろうか。だってサルに話しかけられているんだし。そんならOKもありかな。

「いいよ」とぼくは答える。

「じゃ、口を大きく開けて」とさるきちが言う。

ぼくはそうする。

するとさるきちもぼくに向かって口を大きくあける。

さるきちの口から白くてふわふわしたものが出てきて、ぼくの口の中に入る。代わりに、ぼくの口から白くてふわふわしたものが出て行って、さるきちの口の中へと入っていく。

少しあたまがくらくらする。

気がつくと、立っているぼくの目の前、木の根元にこしを下ろしているぼくがいる。ぼくとさるきちの中身は入れかわったようだ。ぼくの体になったさるきちは木の根元から立ち上がって、ぼくに手をふって、そのまますたすた歩いてどこかに行ってしまう。

 

さるきちの体はとてもかるくて動きやすい。ぼくは木に登って、枝から枝へとジャンプする。ちょっと体がかゆいのは、のみがついているせいだろう。でもそんなことも気にならないくらい、さるきちの体はとにかく遊びにぴったりで、むちゃくちゃ楽しい。

しばらく時間を忘れて遊んでいるうちに、ふと心配になる。さるきちの体のままでは家に帰れない。パパとママはおどろいて、家に入れてくれないかもしれない。

「おーい、さるきち」ぼくは大きな声で呼ぶ。

返事はない。どうしよう。しかたなくぼくは森の中をうろうろする。

やがてすっかり夜になる。ねむくなったぼくは木に登って、そこでねむる。

 

「おーい」と呼ぶ声がする。

気がついたら朝になっている。木の上から見おろすと、下にぼくが、いや、そうじゃなくて、ぼくの体になったさるきちがいる。

「おはよう」とさるきちが言う。ぼくは心の底からほっとする。

「おはようさるきち。体を元にもどしてよ」

「いいよ。じゃんけんしよう」

「じゃんけん? 勝ったら元にもどしてくれるの?」

「うん。1回勝負だよ」

「わかった」

「さいしょはグー、じゃんけんぽん」

ぼくはチョキ。さるきちはパー。あっさりと僕の勝ち。

きのうと同じように、向かい合って口をあける。

おたがいの口から出てきた白いふわふわが、おたがいの体にもどっていく。

そうやって、ぼくらは元どおりの体になる。

さるきちはぼくに正しい帰り道を教えてくれる。おかげでぼくは森を出て、ぶじ家に帰ることができる。

 

パパとママは目をまるくしておどろく。

「さっくん、今までどこ行ってたの?」

ママはそう言って、ぼくをだきしめて、泣く。

「公園の後ろの森」ぼくは答える。

「きのう帰って来なかったから、けいさつにさがしてもらってたんだよ」とパパが言う。

「さるきちと体を取りかえてたから、帰れなかったんだ」

「さるきち?」

「サルだよ」

「そうだったの」ママはそう言ってまた泣きながら、ちょっと笑う。

「すっごく木登りしやすくて、めっちゃ楽しかったんだよ」

「そうなの?」

「じゃんけんでさるきちに勝って、体を元にもどしたんだよ」

ぼくがそう言うと、パパとママはうんうんとうなずいて、それから顔を見合わせる。

「さとしを病院に連れて行かないと」とパパが言う。

「そうね」とママもうなずく。

「何かショックをうけて、こんらんしてるのかも」とパパが言う。

 

ふと思う。あの時、さるきちとのじゃんけんで、ぼくがグーを出していたらどうなったんだろう。さるきちの体のままでは家に帰れないから、ぼくは森にくらすことになる。じゃ、ぼくの体になったさるきちは? そのまま森でくらせるのかな。いや、森を出ていくことになるんじゃないかな。

 

だいたい、体を取りかえようってさるきちに言われたときに、どうしてあんなにかんたんにOKしちゃったんだろう。

何もかもへんだ。

ぶるぶると体がふるえてくる。ぼくは本当はグーを出したんじゃなかったっけ?

ぼくは本当に元にもどったんだろうか?

ぼくは本当にぼくなんだろうか?

ひょっとしたら、今ここにいるこのぼくはさるきちで、本当のぼくは、まださるきちの体になったまま、森をうろうろしているのかもしれない。

パパとママに病院につれていかれて、さるきちだってばれたら、家を出ていかなきゃならなくなるかもしれない。

「病院には行かないよ。ぜったい」とぼくは言う。

パパとママがしんぱいそうに顔を見合わせる。

© 2026 浅谷童夏 ( 2026年9月28日公開 )

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