序
私は独り、うら寂しい横丁を歩く。
二尺ばかりの狭い小道。ひび割れた灰色のコンクリートは、示し合わせたように一斉に口を噤み、私の人生を嘲笑ってさえくれない。だが杖を突く度に、こつん、こつんと響く空虚な音は、洞穴の岩壁に反響するかの如く、私の精神をことごとく蝕んでいった。
歩けども歩けども、錆びた匂いは私の背中をぴたりと付いて回り、時折悪戯に鼻先近くに躍り出ることもあった。だが、直ぐに私が起こす細い風に巻かれて、また背中へと流れてゆく。軒先にぶら下がる四角い看板は半分が割れており、ネオン管の薄い青色が剥き出されていて、随分と商売から遠ざかっていることを物語っている。
この横丁に漂うものは、紛れもない死の匂いである。
私はゆっくりとした足取りで横丁を進む。こつん、こつんと孤独を鳴らしながら。
突然に終わりを告げた小道の先には少し開けた場所があって、それまでの死の静寂とは相反する熱気が満ちていた。黄色、青、ピンク色の褪せた縞模様のサーカステントが一張り佇んでいる。その周りで俄に浮き足立った人々。つやつやと上気した桃色の頬を緩ませた少女の上擦った声が私の耳を否応無しに撫でていった。
私はその人波から少しばかり遅れを取って、一番目立たぬ日陰へと逃げ込んだ。そこには私と同じように傍観に徹する存在がいた。白いペンキが剥げて、赤錆色のまだら模様の椅子の上で、口元だけで笑みを作る熊のぬいぐるみ。彼だか彼女だか分からないそれが抱えているプラカードには、印刷ではない、手書きの文字が並んでいる。
『Grand Guignol』
私はもうここに、何年も通い詰めている。喪失を受け入れられずに、ここで夢想に浸るのだ。
彼に、もう一度会えたなら、と。
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