終
私はそれ以来、あれ程身に馴染んでいた凡庸の呪縛からたった独り切り離された。私の喪った右脚だけが、密接に社会との繋がりを持っていたかと言えばそうでは無い。そうでは無いが、私の見えぬ右脚は、間違いなく私を社会から隔てた最たる要因であったし、私が右脚を喪わずにいたら、未だ我らは決して切れぬ鎖で繋ぎ合わされたままであった。
私に執心していた金剛の御令嬢は、杖なくして歩行する事の出来ぬ私から素知らぬ顔で離れて行った。彼女に留まらず、私の周囲で蠢いていた全ては、まるで幻影のように消え失せた。
私は凡庸からの脱却を望んでいた。心から軽蔑していた凡愚共を見下す為に、自らが異形でありたいとさえ願った。
だが、決して叶う筈の無かった望みが果たされた今となって、私は彼のいない世界が途方もなく閉鎖的である事を知った。彼の見ていた世界が、如何に孤独と密接であったかを知った。
彼だけではない。あの見世物小屋の異形の者達も皆、各々が孤独であったのだ。
今ならば、私はこれ程までに愚かな望みを抱く事も無いのだろう。そしてこの孤独の中で、彼が私に寄せた想いに気付いてやれるのだろう。
今ならば、とは言っても、私にはもう何一つ残ってはいない。樹海すらも私を拒み、私は孤独の淵を這いずり回るより他に、最早術もない。
だから私は、唯一私を拒まぬ悦楽のサーカステントを目指す。其処で目を覆いたくなるような凄惨な残虐劇を目撃し、そして夢想するのだ。
私が再び、凡庸と愛し合える日を──。
了
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