(第17話) まだ依頼があったころ、編集者に「がんばって書いてますか?」とよく言われた。依頼主にケチをつけるなんてできないので受け流していたものの、実に違和感のある言葉だなぁと依…
(第16話) 「大葉」で、久しぶりに女神と会った。 もっとも会ったからといって話をするわけでもない。知り合いでもなんでもないのだ。単に見かけた、という程度だ。 その日…
(9章の3) わたしは結局独身のまま30代を通り過ぎた。あの時に思い描いた年齢をとっくにすぎているのだ。しかしそれが、どうも実感としてわかない。 現在のわたしは、もう40代…
(第15話) 1冊分を書きあげた依本は内田に送った。 デビュー時には、直接手渡すか、書留で送るかだった。それが今や、メールに添付するだけとくる。レトロな感覚を持つ人間として…
(9章の2) バスがやってくるまでにかなり待たされた。これはわたしが、「バスがすぐに来る」と念じなかったからだ。田舎のバスは本数が少なく、長く待たされるのが当たり前なのだ。特に念…
一行で済むことをったく長々長々長々長々もう勘弁してれ〜〜。嫁その他〜、愛人含む〜。ていうかもれなく全世界〜。アベンジャーズ含む〜、亜種含む〜。インテリジェンスくれ〜〜〜。
平凡な青年だった『俺』はとあるきっかけにより合法ハーブと出会う。 自分達の世代を『奴隷の世代』と揶揄する『俺』は自殺しないためにも暴走しないためにも合法ハーブをするようになった。 やがて鬱病…
一人暮らしを決心して、安いという理由だけで訳あり物件を引っ越し先に選んだわけだが、それがとんでもない訳ありで……。 悪魔と妖怪が住むアパートのほのぼのドタバタ劇。
作品集『フィフティ・イージー・ピーセス』収録作。
作品集『フィフティ・イージー・ピーセス』収録作。第137回時空モノガタリ文学賞入賞。
(9章の1) わたしは、駅に行きたくなった。鄙びた温泉街の、単線の小駅。一日にたった数本だけしかやって来ないローカル線。そんな駅を味わいたかった。 乳母車を押している主婦に…
(第14話) 駅で内田と別れた依本はぜんぜん呑み足りなかったので、「大葉」の暖簾をくぐった。 いつもの壁際がうまい具合に空いていて、落ち着く場所を確保できたことに満足する。…
(8章の3) 田んぼの向こう、遠くに稜線がある。しかし黒い雲と繋がり、稜線との境目がなかなか判別できない。凝視して、多少薄く見えるところから雲だと、かろうじて分かる程度。雲は昼間…
(第13話) 3日後の夕方、内田が進捗状況を確認しに来た。 すでに3分の2まで書き上げている依本は、内心の得意気を隠しながら、プリントアウトした原稿を渡した。 しかし…
(8章の2) こんなにも感覚や意識がしっかりしている世界が夢だというなら、もしかしたら、現実の世界だって夢なのではないだろうか。わたしは自分の末に、一縷の希望を持った。このあと間…
(8章の1) わたしはずっと歩いている。「汗よ乾け」と念じていないので、全身汗まみれだ。この時代のシャツは吸水力が悪く、流れ落ちる汗でパンツまでもベトベトになっている。 小…
(7章の4) わたしはまた、ふと思いだす。以前に一度、夕日を見つめていて思ったことを。 もしかしたら自分は死ぬとき、夕日を見たくなるのではないだろうか。きっと死ぬ間際になっ…
(第12話) 謎の人物は伝説も生まれやすい。詠野Zにもいくつか噂があったが、その一つを抜き出すと、このようなすさまじいものだった。 それは詠野Zが、まるでタイピストが原稿を…