離婚なんて他人事だと思っていたから、いざ自分がそういう立場になったとき、僕はうろたえた
仕事が忙しく、久しぶりにとれた休みの日の食卓、妻が突然僕の目の前に離婚届けを置いた
「え…」
「私、もう我慢出来ないんです」
聞けば妻は、今までずっと1人で育児や家事をやってきてもう疲れたというのだ
確かに僕は仕事ばかりで妻をほったらかしにしてきたかも知れない
しかし、僕が仕事をしなければ生活が出来ないということを妻は充分理解してくれていると思っていたし、息子のことは妻に任せておけば安心だと思っていたのだ
僕は妻を信頼していた、何の疑いもなく仕事を頑張っていた
「 … 」
僕にとってはただそれだけのことだった
しかし妻にとってそれは、重要な問題だったらしく、孤独に耐え切れなくなったそうだ
「和也にはもう話してあります」
「 … 」
「和也は行きたい大学があるから、その費用だけは何とかして欲しいって言ってました」
「それだけ?」
「え?」
「家族がバラバラになるんだぞ?」
「あぁ…あなたからそんな言葉が聞けるなんて思ってもみませんでした」
「 … 」
「あなた、もうとっくにバラバラなんですよ、うちは」
「そうなのか?」
「はい、もうずっと前から和也はあなたのことをお父さんだなんて思っていませんよ」
「お前もか?」
「…そうですね、この用紙が答えだと思って下さい」
食卓の上に置かれた離婚届が全てを語っていると、妻は言った
「そうか…」
「あなたは頑張ってきたのかも知れない、けどもう…限界なの」
妻の眼は真剣だった
僕は話し合う機会も与えられず、一方的に別れを告げられ、もうどうしたらいいか解らなくなっていた
「 … 」
そんなとき、部下からの連絡が入った
「ちょっとすまん」
僕は逃げるようにして家の外に出た
「すみません、お休み中なのに」
「あぁいいんだ、どうした?」
部下は休日なのに会社にいるという
僕は車で部下の元に向かうことにした
「すみません本当に」
「いや大丈夫だ、むしろ連絡をくれて助かったよ」
「えっ?」
「いや…」
僕は部下にさっきまでの妻とのことを話してしまった
「そうだったんですか…」
「すまん、こんな話」
「いえ、むしろ嬉しいです」
「なんで嬉しいんだ?」
「僕もつい最近、妻に離婚を切り出されちゃったんですよ」
「 … 」
「だから僕…家に帰りたくなくて、休みの日でも会社にいるんです」
「そうだったのか」
「はい」
部下も僕と同じ理由で離婚を切り出されていた
同じ穴のムジナだった僕と部下はすっかり意気投合して、会社を出て飲みに出かけた
2人とも何もかも忘れたかったんだと思う、多量の酒を浴びるように飲んだ
「 … 」
ところが2人とも酒を飲んでも飲んでも酔えなくて…どうしようもなかった
「課長、僕間違ってたんですかね?」
「 … 」
結局2人とも2人でいても何も答えを出せずに帰路に着いた
・
僕は、妻の一方的な要求を呑むことにした
「ありがとう」
妻は笑顔だった
「 … 」
その妻の笑顔を見ながら僕は気に入っている風俗嬢との淫らな時間を思い出していた
何故思い出してしまったのかは自分でも解らないのだが、きっとその妻の笑顔よりも風俗嬢のイク顔の方が今の僕にとっては安らげるということなんじゃないかと、僕の元を去っていく女よりも、何度も何度も僕を求めてきてイキまくる女の方が今の僕には必要なんじゃないか…と、思っていたのかも知れない
…僕の頭の中ではもうすでに彼女が何回もイキまくっている
早く彼女に逢いに行こう
end
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