超短編小説「猫角家の人々」その41

moonkaguya

小説

1,682文字

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しかし、修理費の水増しといった手口は、そんなに簡単に行使できるのか?できるらしい。

関東のある大手自動車販売会社は、2006年から2012年までの間に2978回、事故車の修理費の水増しをやっていたと判明している。損保会社に億に近い額の水増し請求をやっていたのだ。損保会社が「おかしいのでは?」と恐る恐る打診してきたので、内部調査したら、発覚したという。

つまり、当事者が「自白」しない限り、発覚しない不正なのだ。関東運輸局は、自動車販売会社から、報告があって初めて事態を知ったのだ。役所に監督指導能力などなかったのだ。しかも、実際にはやっていない修理や部品交換の費用を損保に請求していたというのだ。売り上げ目標達成のためとはいえ、「やっていない修理」を請求できる現実があるなら、ワルは絶対に利用する。あまり、業績の良くないホース・エイジ修理工場が命脈を保ってきたのも、損保への「架空請求」のおかげなのだ。

ちなみに保険金の請求には、先に述べたように、警察庁管轄の自動車安全運転センターが発行する事故証明書の添付が必要だ。警察組織内部の犯罪仲間から「本物の偽物」を入手できればいいが、謝礼が掛かる。「偽造屋」から偽物を手に入れる方法もある。勤務先の「休業損害証明書」も偽造が効く。詐欺商売に「書類の偽造」はつきものなのだ。

ちなみに、偽造天国中国では、大学の偽卒業証明書まで手に入る。実際には大学を出ていなくても証明書はいくらでも手に入る。それを使って、日本の六大学の大学院を受け、首尾よく合格し適当に卒業する。涼しい顔をして、履歴書に一流大学の「修士号」を記す。もっとも日本も似たり寄ったりの偽造天国だ。ちなみに偽の運転免許証の相場は、12万円だそうだ。サラ金から借金をするのに使うのだろうか?

四つの葉弁護士法人の無法松弁護士や同僚は、中華麺社長の属する「朝鮮悪」組織のメンバーと自然と交流することになる。たちが悪い。名古屋の栄でメンバーに連れていかれる店も、薄暗い、おかしな匂いのする店ばかりだ。メンバーは何やら、奥の方の別室に暫く籠っては戻ってくる。ヘンな臭いがする。

鹿児島県の県庁所在地の中心街、鹿児島城下にある県立高校。ズルムケ高校(仮名)は、県下随一の公立の進学校だ。東大、京大、九大に50名超を毎年送り込んでいる。ここを卒業して、京都の名門、当事者大学法学部に進んだ無法松は、いわば、地方出のお嬢様だった。氷河期に弁護士になって、10年間、必死に戦ってきた。生き残るために、危ない橋も何度もわたった。危ない橋を渡る度に危ない人たちと交流を深めた。

クラブのVIPルームで、男同士のスキンシップが始まる。暗くてよく見えないが、何か注射器のようなものを持っているようだ。「馬鍬っている」ように見える。お嬢様としては、あまり見たくない代物だ。無法松のそばには、中年の女性メンバーが寄ってくる。九州の福岡から来た、同じメンバーの霊図美杏というマッサージ師だという。同じ九州の出身ということで、話が弾む。「先生、お疲れ溜まってるでしょう?足を揉んでみましょうか?」と霊図美杏が提案する。断るのも失礼かと思い「お願いします。」と小さく答える。

霊図のマッサージは、本来は、被験者が横たわり、霊図が足先でツボを押していく特殊なものだ。だが、VIPルームでそれはできない。普通に足裏マッサージをするという。霊図美杏の足裏マッサージが進行する。足指の間への微妙な刺激が…..無法松の「女」を呼び起こしていく。30分後、無法松は陶酔した表情を見せ、半ば、弛緩して上半身をソファーにのけ反らせている。先程から飲んでいる紅茶に何か入っていたようだ。「性的な興奮」が倍増する。いや、5倍増かもしれない。覚醒剤を溶かし込んだ紅茶は、無法松を虜にした。その夜から、無法松先生は、シャブ中界の正会員として、立派にやさぐれることとなったのである。シャブ中弁護士の誕生である。

一端、シャブ中弁護士となったからには、生きている限り、裏社会御用達弁護士として、こき使われる運命と相成ったのである。(続く)

2023年8月2日公開

© 2023 moonkaguya

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