日の塵 正直編

日の塵(第1話)

消雲堂

小説

1,261文字

 僕は、20代の頃に当時勤めていた雑誌者の編集長から、サラ金で簡単に金を借りられることを教えられました。その編集長は「飲む打つ買う」の三拍子が揃った無頼の人で、会社の金を誤魔化しては女や賭け事に使っていました。そのうちに雑誌社を辞めて埼玉で飲み屋を初めましたが無頼ですから、あっという間に飲み屋を潰して行方不明になってしまったのです。

 僕は生まれつき浪費癖があったようで、いくつかのサラ金から金を借りて欲しいものを片っ端から買い漁って、あっという間に借金の山を作りました。月々の返済には月給のほとんどを使い、生活費を捻出するために返済後に借金という自転車操業状態に陥りました。救いだったのは「飲まない打たない買わない」だったことです。

 僕は性的には未熟なのかどうかよくわからない男でした。肉体的には随分と遅れていて、東京で独立して2年後の27歳になってからようやくソープランド(当時はトルコ風呂)で童貞を捨てることができたくらいです。ただ、精神的には子供の頃からかなり異常な性的思念を精神内部に育んでいました。それは、幼い時に一度だけ会ったことのある従妹が近くに住んでいることを知って、無理やり自分の女にしてしまったことから、うかがえると思いますが、これは相手があることなので、すぐに書くのではなく、万が一の賠償能力を持った時に書こうと考えています。

 話がそれましたが、長年にわたる自転車操業を救ってくれたのが今の妻でした。妻の家族は神のような良い人たちでした。結婚するならと僕の借金を全額返済してくれたのです。僕たち夫婦は僕の実家がある神奈川で、しばらく平穏な日々を過ごしたのですが、僕の浪費癖はおさまらず、借金をしては無駄なものを買って浪費癖を満足させる生活に戻ってしまいました。妻は結婚したら家で家事をしながら夫を待つという生活が夢だったようですが、僕のせいで彼女も働かなくては生活できない状態に陥ってしまいました。

 自転車操業の生活を続けるうちに、妻の実家から「頭金を払ってやるから千葉のマンションを買え」と言われます。まさか「借金をしているので月々の返済が不可能」とは告白できませんから、妻の両親の好意を受け入れ、千葉にあったマンションを購入してしまいます。

 当時、僕の父親はパーキンソン病を患っていて、介護の必要がありましたが、僕は実母と仕事が忙しい妹に父を押し付けて、妻の両親が頭金を出してくれた千葉のマンションに暮らすことになりました。

 神奈川から千葉に引っ越すときのこと。妹から「お父さんがトイレにパンツを流して詰まってしまった。私は会社に行かなくてはならないので代わりに何とかしてほしい」と電話があり、「冗談じゃない、俺たちは引越しだから行けるわけがない」と冷たく答えると、「それじゃトイレを流すパイプクリーナーを貸して」と言うので引越しのトラックを待たせて妹にパイプクリーナーを持って行きました。妹は泣きながらパイプクリーナーを抱えて恨めしそうな目で僕たち夫婦が乗るトラックをいつまでも見ていました。

 …つづきます。

2014年4月22日公開

作品集『日の塵』第1話 (全3話)

© 2014 消雲堂

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