ミームの生まれ出るところ

名探偵破滅派『虚魚』応募作品

諏訪真

エセー

1,057文字

呪いの魚というか、怪談話がどのようにして生まれるのかという観点で見ると、割と興味深い。

本稿を書き始めたのが、ちょうど2章を読み終わったタイミングである。分量にして50%といったところで、話作りの鉄則として話の真ん中までに主要人物は全て登場させなければならないというものがあるので、いいかえればこの時点で必要なキャラは出揃っていなければならない。つまりこれがミステリー、あるいはミステリー要素があるホラーとして考えるなら、犯人は既に登場しているはずである。逆にまだ登場していないというのなら、推理ゲーム以前に話として出来が悪い。

しかしその割には事件らしい事件が起きていない。正確には事件と呼べるものは全て過去に起きていて、推理するとするならその過去の事件を解くことになるのだが、その糸口も3章まで読み終わってもいまいちはっきりしない。

まず主要な登場人物は誰だろうか。主人公、カナ、登、弁護士、怪しい業界人、失踪したカナの同級生、そして主人公の両親を事故死に追いやった人物。これくらいか。犯人役に当てはまりそうな人物として、昔のカナの既に疾走してしまっている同級生とかが怪しく見える。他は川の源流を根城とする宗教団体のビレッジとかだがこれは違いそうだ、特に後者は(中盤までに詳細が出ていないので除外)。

消去法で考えるとカナ、登、弁護士あたりになる。登場頻度と話の関わり方から絞ると、カナと登だけになる(弁護士が何かしたという形跡が見当たらない)。そして3章の終わりの時点での、カナのセリフ、「ここには何もなかった」から考えると、残るのが登しかいなくなる。

ところで登が仮に犯人だとすると、なんの事件に関わっているのだろうか。話の焦点は一貫して「釣り上げると死ぬ魚」だ。その特徴は多少のバリエーションがあれど、白っぽくてぶよぶよし、人語を話す点で一致している。作中で実際に見た、あるいは遭遇しかけた箇所は、3章までの間ではカッパのでる池に夜中に行ったときだけだろう。それすら実物を見たわけではなく、人の話し声と水を叩く音が聞こえただけだが。

登が仮に犯人だと仮定すると、犯人として起こした行動としてある仮説がある。
「怪談話などのミームを個人で扇動することは可能なのか?」だ。

本作では主人公が怪談話の収集を登に依頼するシーンが多々ある。もし、そこで伝えられる話が全て登の作為によるものだとしたら?

ではゆく先々で実際に見聞きした話は何なのか? それすら誰かの扇動された結果によるものだとしたら?

主人公とカナがそれに振り回されているミームも出どころがひょっとしたら同じところなのでは、というのが推理というか想像だった。

2021年12月20日公開

© 2021 諏訪真

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