絶滅者 36

hongoumasato

小説

1,856文字

ついに、藤堂本家へ乗り込む時がやってきた。

「ワタシ」は透視能力を使い、過去の忌々しい真相を知る。

その時、「ワタシ」は強制移動させられる、藤堂の清彦によって。

ついに「ワタシ」と清彦が対峙し・・・

まだ母は、絶望の岸壁で唸り声を発している。

 

異形のモノとの融合によって得られた、透視――過去と心を見通す能力。

 

全ての元凶を破壊し尽す起爆剤とするため、あえて透視を使わなかった母の過去。

 

母はなぜ、一族にとって爆弾なのか。

 

真相を知るべき時が来た。

 

 

ワタシは全てを知った。

 

その瞬間、膝から崩れ落ちそうになった。

 

この目で見た地獄よりも、おぞましい現実だった。

 

家族全員で参加した唯一の藤堂本家の会合。

 

その席上で、母を舐めるように凝視していた爬虫類男。

 

あの男が清彦。

 

うつけの清彦。

 

あの男を破壊する。

 

母のために。

 

ワタシのために。

 

家族のために。

 

不意に、瞬間移動「させられた」。

 

強制的に。

 

その事実だけで、充分に衝撃的だった。

 

藤堂本家に瞬間移動しようとした矢先だった。

 

自分の意思とは関係なく、ワタシの体は別の場所へ運ばれた。

 

誰かがワタシを強制移動させた……?

 

考えたくない。

 

想像したくない。

 

だが、それを行った相手を予想するのは容易い。

 

正に今から自分が破壊しようとしていた張本人――清彦。

 

うつけの清彦。

 

 

清彦は藤堂一族の中でも、直系の血筋にあたる。

 

しかし一族が彼に任しているビジネスは、クレジットカード会社。

 

傍流だ。

 

一族の直系ながら、この待遇。

 

その原因に、ワタシの母が絡んでいる。

 

そして、ワタシ自身も。

 

 

ワタシが清彦に強制移動させられたのは、藤堂本家の納屋のような場所だった。

 

納屋といっても中は広い。

 

生前に家族で行った郊外にあるホームセンターを、ふと思い出した。

 

あまりの敷地面積と売り物の多さに、皆呆然となった……遠く懐かしく、甘い思い出。

 

あのホームセンター並みの空間が広がっている。

 

ここだろうか?

 

さっき透視で見た、全ての元凶の始まりは?

 

ステルスで歩きながら、屋内を観察した。

 

どこの納屋にでもあるような、鍬や鎌、トラクターといった農機具が置かれている。

 

場違いなものを見つけた。

 

等身大の鏡。

 

しかも美しく磨かれている。

 

通常、納屋に鏡など無い。

 

ましてや、縁を豪華な純金で彩られたものなど、皆無。

 

「やっと二人きりで会えたね」

 

寒気がする気障なセリフ。

 

いつの間にか、清彦が立っていた。

 

出現に気付かなかった。

 

しかも、ステルスで透明化しているワタシが見えるらしい。

 

清彦は、全身白ずくめだった。

 

やたらサイズが大きい白装束。

 

下は素足。

 

なぜか、邪馬台国や弥生時代の戦士達を連想した。

 

実際に見たことは無いけれど。

 

瞼はいやらしい二重。

 

その下の目はゾッとする程、冷たく粘っこい。

 

鋭く尖った鼻。薄い唇。長身。細身に見えるが、無駄な脂肪がついていないだけ。

 

珍妙な白服の下には、鍛え抜かれた筋肉が潜んでいる。

 

ワタシはステルスを解いた。

 

「ワタシはアンタなんかと会いたくなかった。だけど、一度は顔を合わせないといけないの。だって、あなたを『否定』したいから」

 

清彦が甲高い笑いを発する。

 

とかく人を不快にさせる清彦の言動は、持って生まれた天賦の才。

 

「『否定』、ね。組長さんの影響を、随分受けてるね」

 

清彦はワタシを透視していた!

 

信じたくないが、行き着く結論は一つ。

 

ニヤニヤしながら、爬虫類の目でワタシを見詰めている。

 

背中に悪寒が走る。

 

「アンタが何者なのかは知っていた……絶滅者だとは知らなかったけど」

 

「父親には、もう少し言葉遣いを丁寧に」

 

卑しい笑みを浮かべながら、清彦は遂にそれを言葉にした。

 

ワタシの血液が沸騰する。

 

巨大な怒りの塊が、足元から脳へ駆け上がっていく。

2019年2月22日公開

© 2019 hongoumasato

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