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瓦解の念
これ以上もこれ以下も存在しない

509文字

水面は夕暮れを抱かず、

ただ淡く沈みつづける。

 

葦の穂先に触れた風は、

どこから来たのでもなく、

どこへ向かうのでもない。

 

空の低い場所で、

ひとつの雲が形を失う。

 

失われるというより、

もとより輪郭などなかったかのように。

 

岸辺の石は長い時間を含み、

苔はその上に静かに眠る。

 

誰にも見つからない湿り気が、

土の奥で季節を育てている。

 

遠い山の影は水へ流れ、

水はそれを拒まず、

受け入れたことさえ忘れてゆく。

 

やがて光は薄くほどけ、

野の色も、空の色も、

互いの境目を手放してしまう。

 

残るのは、

 

名づけられる前の静けさ。

 

鳥の飛跡も、

草の揺らぎも、

流れる雲のかすかな変化も、

 

すべてが同じ深さへ沈み、

 

世界はようやく

 

ひとつの呼吸だけになる。

 

その呼吸さえ尽きたあと、

 

なお消えないものがある。

 

夜露の重みでもなく、

星明かりでもなく、

闇でもない何か。

 

それはただ、

 

何ものでもなかったものが

 

何ものにもならないまま

 

在りつづける気配。

© 2026 都築 理都 ( 2026年7月30日公開

作品集『タピオカパールを噛まずに飲む』最新話 (全4話)

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