水面は夕暮れを抱かず、
ただ淡く沈みつづける。
葦の穂先に触れた風は、
どこから来たのでもなく、
どこへ向かうのでもない。
空の低い場所で、
ひとつの雲が形を失う。
失われるというより、
もとより輪郭などなかったかのように。
岸辺の石は長い時間を含み、
苔はその上に静かに眠る。
誰にも見つからない湿り気が、
土の奥で季節を育てている。
遠い山の影は水へ流れ、
水はそれを拒まず、
受け入れたことさえ忘れてゆく。
やがて光は薄くほどけ、
野の色も、空の色も、
互いの境目を手放してしまう。
残るのは、
名づけられる前の静けさ。
鳥の飛跡も、
草の揺らぎも、
流れる雲のかすかな変化も、
すべてが同じ深さへ沈み、
世界はようやく
ひとつの呼吸だけになる。
その呼吸さえ尽きたあと、
なお消えないものがある。
夜露の重みでもなく、
星明かりでもなく、
闇でもない何か。
それはただ、
何ものでもなかったものが
何ものにもならないまま
在りつづける気配。
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