当日会場でどんな顔をするか。
と思っていたらいつの間にか何を着るか考えはじめていた。
あんまり冬服持ってないんだよなあ。
米田淳一はすごいものを作りはじめていた。
気合を入れるときにかぶるという。なるほどそういうメンタルコントロールは大事だ。
澤さんも楽器を持ち込むと公言しているし、ぼくが手ぶらというわけにはいかない。
facebookで聞いてみたら「全身銀タイツ」ということで話がまとまった。
頭にツノ付きのやつがいいな。一応探してみたが、激しいノベルジャムの攻防に耐えうる品質のものは見つからなかった。
やはり戦闘服か。
アルバイトで使っている作業服はありだが、今のやつはカーゴパンツじゃないのでちょっとかっこ悪い。
もう少し使い込んでいればよかったけど、まだそんなに働いていないので新品同様だ。
真新しいユニフォームというものは、どんなシーンでもダサいものだ。当然他の参加者にはナメられてしまうだろう。
それでは本末転倒ではないか。
できるだけ怪しげな風体で、周囲の集中力を奪うのでなければ意味がない。
スター・ウォーズのコスプレを考えたが、自分よりSWに詳しい人がいたら、ニワカだとバレて精神的優位に立たれてしまう。
とはいえSWファンなのはアピールしたいので、「アイムユアファーザー」のTシャツを着ることにした。
電書関係の集まりには何度も着ているので、違和感もないだろう。普段着だ。
二日間同じTシャツというのも不衛生なので、もう一枚変なものを着なければならない。
横浜FCのユニフォームを着用することも考えたが、今はスタンドに行ってないので、押し入れの奥底に埋まっている。
これを引っ張り出すと、我が家の倉庫番の逆鱗に触れる可能性が高い。
本戦を前にそんなことで精神力を損耗するのは得策ではない。上の衣装ケースに入っているもので課題をクリアしたいと思った。
新しくなにかを買うことも視野には入れていたのだが、グズグズしていたらいつの間にか前日になってしまったので、もう間に合わない。
手持ちでどうにか収めるほかなかった。
衣装ケースをまさぐっていると、奥の方に紫色のTシャツがあった。FUSEeのスタッフTシャツだ。
以前ePubPubのジャンケンで勝って頂戴したレア物である。
これなら現場にはなんのTシャツか分かる人が多いし、妙に内輪ウケするに違いない!
まさにうってつけである。ありがとう池田実さん。このTシャツはこの日のためにあったのですね。
ということで二日間の服装が決まった。
あとは暇な時間をどう過ごすかの対策だ。
一般的には文藝編集者は作家先生の原稿待ちで時間を潰すのが主業務である。
ノベルジャムではきっと大量に時間が余って、ヒマを持て余すに違いない。
古田の靖っさんとは「麻雀でもするか」という話は出ていた。
ジャラジャラ鳴らして、他のチームの作家の集中力を裂こうという作戦だ。しかしうちの作家の方が影響をウケるかもしれない。距離も近いだろうし。
鷲巣麻雀の牌を買おうかとも思ったが、マットまで持っていく必要があるので断念した。
とりあえず暇つぶし用にはVRゴーグルを持っていくことにした。
UnityでVR書店を作って一人だけハッカソンな感じで過ごせば、二日間ぐらいあっという間に終わると思ったからだ。
何か困ったら高橋さんに相談すればすぐに解決するだろうし、一石二鳥である。我ながら名案だ。ふはは。
周囲がにわかに騒がしい。新たにノベルジャム参戦を表明した作家がツイッターに現れたとのことだった。
うちの米田淳一が珍しく激昂しているので、何ごとかとおもったら、「新城カズマ」さんだった。
とりあえずウィキペディアで詳細を調査する。
〈新城カズマ〉はキャリア二十五年。パッキパキのプロ作家である。
コロッセオにはとんでもない猛獣が用意されていたのだ。これは運営からの刺客に違いない。なんてこったい。
米田淳一は今年でキャリア二〇年。五年負けている。
がしかし、高卒で社会に出て出版界の隅っこで雑草のごとく生き抜いた俺だって、数えてみれば二十五年選手である。
足したら四十五年だ。新城先生にどんな編集がつくかわからないが、二十年以上のベテランが来るとは思えない。
つまり単純に年数だけなら、我々が最長老なのである! たぶん。そうね。きっと。
新城先生がTwitterで奇妙なことを言っているらしいので見に行くと、ノベルジャム用のネタ帳を「販売」しているとのことだった。
どういうことだ?
ノベルジャムでは作家は自分の担当編集が誰なのか当日までわからない。しかし全部の作家がそれをよしとするとは限らない。
作家側が、編集サイドからアプローチができないことは知っているかどうかはわからないが、何かで聞きつけて、新城先生が独自に探りを入れてるということもありうる。
プロはルールを拡大解釈しない。ルールの文言を一字一句その通りに解釈して、スレスレの抜け道を探り当ててこそプロフェッショナルである。
編集からのアプローチは禁止でも、作家からのアクションはなんら禁じられていない。
恐ろしい人だ。
他にも何人か出場作家を調べてきたが、このような明確なアクションを見せる作家は他にいなかった。
ネタ帳はnoteの機能を使って2000円で売られていた。安くはない。安くはないが。
ぼくは迷うことなく、購入ボタンを押した。その上で「買いました」とつぶやいた。リアクションはなかったが、目には入っただろう。
〈新城カズマ〉は敵である。敵を知ることは百戦のうち半分ぐらいは安全圏に持ち込める常套手段である。
この2000円の投資は二つの効果をもたらす。
一つは新城先生のネタ帳という貴重なものを見られる上に、向こうの手の内がわかるということ。
もう一つは。
当日、現場での顔合わせで、2000円のネタ帳を買ったのと違う人物が編集で現れたら、いくら新城先生でも1ミクロンぐらいは動揺してくれるかな、という浅ましく小賢しい作戦である。
ぼくが小ネタを積み重ねるしかできないのなら、一つ一つ積んでいくまでだ。そのためなら2000円は惜しくない。
惜しくないもん。
つづく
"何を着ていくか、それが問題だ。あと2000円の話。"へのコメント 0件