夢。 おれはまだ高崎に棲んでいて、そこで仕事をしている。多くの故郷の友人がそうであるように。故郷は湯船のように心地よく、そこに身を浸していれば外の世界はただ旅をするためだけの土地となる。母親のつ…
五月某日 大学時代の友人久しぶりに逢う。お互い社会人だ。 「いちばんお金使うものってなに」という話になり、「酒」と即答するおれ。 五月某日 かつて自分がつけていたのと同じ香水の香と…
巨大な軍艦がビルを破壊しながら突き進んで行くさまは、まるであの日の津波のようだった。小型戦艦が数隻並走している。軍の自動制御装置のトラブルだと、防災無線は繰り返し告げている。 海上に浮かぶ街は水…
「それでは服を脱いで」 私の言葉に彼女は黙って従った。診察台と私のデスクとの間に置かれた薄い仕切りの向こう側で、サンダルを脱ぎ捨てたその足がちらりと動く。彼女の裸体など見慣れている私にとって、仕…
テキストはある文脈の中に位置づけて読まれる。ただし、文脈は広がりつつある。人々がスマートフォンを持つことで、位置情報を元にしたマーケティングが可能になったように、IT界の巨人達はより強い属性を求…
スルメイカを食べると、潮の香りが、口に広がる。それが好きで僕は今日もスルメイカを噛む。マヨネーズとか、唐辛子はつけないで、コンロの火で少しあぶって、人肌になったところを口に放り込ん…
投票日まで残すところ2日となった日の朝。早朝の駅頭活動を終えて冷凍庫のように冷えきった事務所内を石油ストーブ4台で暖めていると、「まだ折られだ!」と牛久から通う金井芳雄が強い北関東訛りで叫びなが…
アパートの手前の公園を曲がった時には、そのまま冷蔵庫のない、六畳の、牧夫の廃棄物で雑然とする自分の部屋に帰る気がしなくなっていた。公園の明かりは点いていたが、人影はない。佐々木晴男はアスファルト…
夕闇を過ぎ、暗くなった部屋の中で、ビデオデッキにテープを入れる。古いアニメシリーズの再放送を録画したビデオテープも、牧夫の置いていったモノだった。けれど佐々木晴男は、このテープだけは繰り返し何度…
「言っとくけど、復讐とかじゃないから」 理香は思い出したように付け加えた。それから、佐々木晴男の目をまっすぐ見る。再び視線から逃げようとした佐々木晴男であったが、理香の瞳を見るのは初めてのような…
部屋のドアを開けると、冷蔵庫がなくなったせいか少し広く感じる。 冷蔵庫の置かれていた畳は、他の場所より青い。しかし受け皿から滴った水のせいで、一部が黒ずんでいた。佐々木晴男は冷蔵庫を拭いた雑巾で…
かたんと揺れると、しらすは音楽をとめた。 でもそれは一瞬のことで、すぐにまた音楽は流れ始めた。 かたんと揺れると、しらすは音楽をとめた。 音楽はすぐにまた流れ始めた。揺れる度にしらすは息苦しそう…
暴力的な音で目が覚めた。部屋のドアが再び叩かれているようだった。 なぜだか知らないが、また誰かが扉を開けろと言っているのだ。佐々木晴男は眼鏡をかけたまま寝入っていたので、首を横に曲げるだけで…
衰退する音楽業界の中でAKB48だけがひときわ高いセールスを誇っている。これはなにがしかの事実を指し示していないだろうか。純文学という「売れないジャンル」をAKBと対比させることで、私達の電子的…
牧夫が歪んだ口元に、硬い微笑みを浮かべ立っている。 「五千円」 「ああ」 佐々木晴男は差し出された紙幣を受け取った。自分が債権者であることは常に頭の片隅にあったが、いつ返済されるかわからない金…
佐々木晴男は今、朝の六畳間で六年前の[おこづかい帳]を感慨深げに眺めている。八冊の大学ノートは同じ大きな茶封筒に入れられているため、いつでも取り出す事ができるのだった。 佐々木晴男にとって、その…
佐々木晴男の一日は、数字と対峙することから始まる。 その数字は、新聞の経済欄や株式市場とは何も関係がない。その数字は、今月の交通死亡事故件数にも、ここ数年の少子化率推移にも影響されないし、遠い国…
春日部にあるオリンピックの通りを右に曲がった住宅街の中に私ん家があります。近所には野良猫13匹飼っている名物オジサンとか、うちの中学のOBで去年甲子園にいったらしい先輩の家が近くにあったりします…
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