刻印
検査入院
清潔な お言葉に
ただ検査されるだけだと信じ
荷物からげてやってきた
科学信仰の詩人
書類にわらわら書いてあり
「受諾します」にサインすれば
さあそこは眩くワンダ・ランド
腕っぷしのつよいばっちゃん出現
さわやかに 私の所有物に名前を書いていく
その昔 ちょっとだけお洒落というものをしてみたく
マルイであんちゃんに教唆され購った
一万五千円のイネドオムパンツにも
お気に入りあひるトランクスにも
問答無用のフルネームを
マッキーの太い方で
こりっと
リスクヘッヂ
「可能性」を秘めたアイテムはすべて没収せよ
イヤホーン、T字剃刀、ライター、ジャージィのゴム紐
君はハードカバーが没収され
文庫だけ残された意味を後日知ることになろう
目力
はじめて 六人部屋の病室に入ったとき
半裸のスキンヘッド安藤さんは窓際のベッドで
腹筋トレーニングの最中
なんらかの衝撃で凹んでいる
傍らの白いカラーボックスには
岩波文庫の仏典のみが積まれている
彼は私に向き直り
盛り上がった大胸筋 ぴくぴくさせ
「すこしでも騒いだら、ひねるぞ」との最初のありがたいおことば
ごんぎつねα
くるところまできてしまった
ぺろんぺろんになっていた私に 回診に来たドクターHは言う
「あなたの力になりたいです」
そっとむねに手をおいてもらった
そのあたたかみに誓うよ
貴様、必ずぶち殺す
ごんぎつね超えるトラジディを私は知らない
初夜
ベッドから見上げれば ドクターHの憂い顔
「出してください」哀願したところ
「ここは楽しいところではありません」
耳元でのささやき
ドキドキしてきた
強制わいせつ
きちがい病院の朝飯タイム
テーブルには産経新聞「朝の詩」
これまでいろいろあったでしょうがやっぱり現在を祝福しましょうとの
例の いつもの アレ
あっち系の のたくりが
毎日繰り返される 下ネタの切れっ端
私はここに来て以来 こうした卑猥なるものから
なるたけ目をそむけるように努力しているしかしここに新聞は産経しかない
同罪
わいせつなる冗談せっせと書いて投稿し続けている人々の生活に
昏くしみわたった つたない呪いを
私がもう一度 呪いなおし 浄化してあげる朝がある
お前たちはいつまでたってもこうした悪ふざけと
のたくりあい やってきており
私は私で同じような猥談やってきたもんだから
ここにぶっ込まれた
符合
ハロウィンに入って、クリスマス・イヴに出る
カウンセラー志望のおんな
うつむいて すわっているのは
道義もへったくれもない不細工なおんな
不細工はうつむいていることがゆるされないというのに
共同フロアのソファで安らぐ
きちがいの方々に
畏れおおくもカウンセルしようという恥知らずのおんな
なんとか「実習」したいのだろう
愛されないおまんこをもったおんな
かわいそうに何を話してよいかわからない
君のきちがいへのアプローチ
なにごともとっかかりというのは難しいよね
私は精力をふりしぼり 非暴力を作動させる
「こういうところに実習に来るのは初めてですか」
「はい」
「どうですか」
お互いに了解済みのまさぐりあいを終えたあと
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